第193話「現場」等の報告 佐野好男の無礼

「現場」を少し見ただけで、圭太は背を向けた。

紀子も圭太の気持ちを察して、一緒に踵を返した。

「現場」が見えなくなった時点で、圭太はようやく言葉。

「かなりな・・・ピンハネかもな」


紀子

「まあ、程度の悪い大工たちだね」

「缶酎ハイ飲みながら、菓子食べながら」

「ゴミはポイ捨て、風で隣家に飛んでも、知らんぷりで」

圭太

「茶髪、金髪が悪いとは言わないが、競馬実況の方に夢中で、手がおろそか」

「道具の整備も、整理もグチャグチャだ」


その後は、現場についての会話なく、銀座監査法人に戻って、上司に報告。

問題点の「可能性」として

・強い成果主義の弊害。

・新しい住宅団地の疑惑。(欠陥住宅)

・政界への献金の適正があるか否か

等を簡略に説明、了承を得た。


自分の席に戻った紀子が、圭太に声をかけた。

「現場を見ないと、わからない、マジにそうだね、ありがとう」


圭太は、いつもの無表情。

「数字だけでは、見えないことが多い」

「監査は、現場を含めて監査するべき」

「現実は、時間的に難しいが、出来ることは、やるべき」


紀子も納得する。

「特に、あの住宅は危険よね、すごく不安」


圭太は、窓の外の首都高を見た。

「行政も検査が甘い、やりきれない場合もあって、図面通りに出来ていないことに気がつかない」

「それを利用して、建設会社が、手抜き工事、金を浮かせる」

「浮いた金は、使途自由な金、行政、政治家への賄賂献金」

「それは、公共工事でも、一般住宅でも同じ」

「泣きを見るのは、大金を払った人ばかり」


そのまま、業務終了時刻になり、圭太は芳香と、あっさりと帰ってしまった。


紀子は、圭太と、もっと話をしたいけれど、既に入籍済みの妻帯者なので、どうにもならない。


その紀子に、佐藤由紀が声をかけた。

「紀子さん、午後は圭太さんとデートでした?」

紀子は、素直。

「うん、勉強になった」

「現場では、いろいろだね」

佐藤由紀は頷く。

「圭太さんは、現場主義ですよ」

「実務から、数字を考える人」


紀子は由紀の顏を見た。

「ところで、何かあるの?」

佐藤由紀は、声を低くした。

「二人がお出かけの時に、池田家の執事で、佐野好男って人が突然来まして」


紀子は、佐藤由紀の表情に、不穏な感情を読んだ。

「で・・・どんな人?」

由紀

「マジに、失礼な人で、圭太はいるか?って、怒鳴って」

「高橋専務が怒って、追い返しました」


紀子は、首を傾げた。

「池田家の執事でしょ?」

「圭太君が、現会長の甥になるのなら、そんな態度は出来ない」

「むしろ、頭を下げて、圭太様なのでは?」

由紀

「すごく焦っているような感じ」

「赤ら顔で、口が臭くて、デブ、低身長、ハゲ」

「女に嫌われる典型ですよ」


紀子は思い当たった。

「圭太、昨日くらいかな、スマホを見て嫌そうな顔していたな」

由紀

「それにしても、無礼、失礼の極みですよ」

「育ちが悪い、そんな感じ」

「高橋専務も呆れて、池田光子さんに連絡をしていました」


紀子は、専務室に向かって歩き始めた。(由紀も続いた)

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