第192話欠陥住宅団地の情報

午後、圭太と紀子は、銀座監査法人を出てメトロで神田方面に。


紀子

「その、喫茶店に、住宅営業のセールスがタムロしているって情報は、どこから?」


圭太は、即答。

「俺の前歴は池田商事、一年目に池田の商品、珈琲とか紅茶を直接、配達した時期もある」

「その時に、次の監査対象企業のセールスマンがタムロしていた店があった」

「今でも、変わらんだろう、そういう店は」


紀子

「圭太の実務か・・・圭太の配達も見たいな」

圭太

「それは、新人研修のようなもの、すぐに終わった」


古びた喫茶店が見えて来た。

圭太と紀子が入って行くと、予想通り、住宅営業マン(社名の入ったネームプレートをつけて)、6人ぐらい、だべっている。


圭太と紀子は、近くに座り、聞き耳を立てた。


「あの営業部長の訓示って何だ?マジに昭和スポ根だよな」

「数字だけで、お前たちを評価する、肝に命じろって・・・」

「必ず前月より多い成約をしろって、できる?」

「やる気がない奴は、すぐに辞表を出せ・・・パワハラだよな」

「総務とか人事はいいよな、気楽で」

「それでいて、威張っているよな、客に届ける菓子にも、文句つける」

「なあ・・・他社のほうが安いよな」

「うん、うちは高い、同じ建坪でも」

「下請けが高い、専務の関係で」

「次期社長を目指すからだろ?」

「銀行も最近渋くてさ・・・返済負担率の関係で」

「客は銀行を使いたい、我が社は我社のローンを使わせたい」

「その説明も面倒だよ」

「その前に新築は売れないって・・・今後どうなるの?」

「二世代のリフォーム勧めた方がよくない?」


そこまで聞き取って、紀子。

「マジに生の声だよ、面白い」

圭太は、唇に人差し指(つまり、黙れのサイン)


「なあ・・・あの開発団地、欠陥だろ?」

「うん、地盤は悪いし、整備も手抜き」

「社命を賭けると言いながら、手抜き住宅を売れ?」

「柱も細いし、筋交いも減らして、大工も心配していた、危ないって」

「大工は、余計なことは出来ないしなあ」

「最低の安全基準もあやふやに、経費を抑えて、社命を賭けて住宅団地か」

「それを命懸けで売れ?マジか?欠陥住宅を売れ?」

「浮いたお金は、例の先生に?」

「ああ、当然そうなるな、次の選挙が近いから」

「専務も、それで昇格か」

「もともと、コンプライアンスなんて、無視の会社だから」

「欠陥住宅を売られた客の命も、従業員の命も、コンプライアンスも関係ない」

「大事なのは数字、数字、数字!」


ここで圭太は紀子に目配せ(店を出るサイン)。

紀子も頷いて、店を出た。


圭太(メトロの駅にスタスタと早足)

「ついでに団地を見に行く?」

紀子も早足。(反応が速い)

「新木場だったよね」

圭太

「被害は出したくないよな」

紀子

「特定の政治家と社員の出世のためにか・・・」

「実に気に入らない」

圭太

「日本の企業風土の典型かな」

「滅私奉公を強いながら、実は中身の怪しい指示」

紀子は圭太の心理を読んだ。

「せめて監査で、何とかしたいよね」

圭太は、「善後措置が難しい・・・」とポツリ、厳しい顔になっている。

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