第191話池田家執事佐野好男は、圭太が大嫌い

俺は、佐野好男、46歳。静岡県富士宮市出身。

(市と言っても、俺の家は、かなりな山間部)

池田家の執事を20年続けている。

執事になったきっかけは、会長聡の大学の後輩で、麻雀仲間だったこと。

(賭け麻雀で勝って、執事になった)

(会長は下手でチョロかった)


執事と言っても、池田聡専属の運転手だけ。(夜のお供が多い)

光子夫人から庭の掃除とか墓の掃除を言われるが、面倒だから池田商事の若い衆に(出世をエサに釣って)押し付けている。


(やらせるだけやらせて、コキ使うだけ使って見返りがない?)(当たり前だ!世間は、そんな甘いもんじゃない)

(むしろ世間の世知辛さを教育していただいていると、思え)

(会長の飲み屋のツケ?あれは、実は俺のツケだ(笑))

(会長の女の家に酒?あれも、俺の女、会長から奪い取った)

(新宿三丁目の重要書類は、忘れているのを実はわかっていた)

(でも、引き返すのが面倒だから、若い衆にやらせただけ)


酔った会長の財布から、クスねる・・・そんなのは日常茶飯事。

会長はボンボンだから、財布の中身なんて、何も知らない。

そうして儲けた金は、実家に送った。

(もちろん農協口座だ、農協しかないから)

実家も大きく新築した。

(建坪で50坪以上、それより前はトタン屋根のチンケな農家だ)


何しろ、富士宮の山間部で、周囲は底意地の悪い農家ばかりだ。

暇があれば、近所の悪口を言い合う、死にそうなジジババから、若いもんまで。

そんな偏屈な部落に住んで、「東京のエライ会社の会長の執事」が、実家に恩を返さないとなれば、そもそも貧相な老父母が、何を言われるか、言われているかわからない。


家を新築してもらった老父母?

ああ、威張りくさって、歩いているよ。

(てめえの金でないくせに)

(家が大きければ自分が偉いと思うのが、田舎者丸出しだ)

(隣の家より、兄弟の家より、親戚の家より大きな家を建てる、それが一番偉いのが田舎)



さて、俺は、圭太が大嫌いだ。

池田商事の時代から、俺の言うことを何も聞かなかった。

公認会計士だか何だか知らないが、池田家の執事の言うことを聞かないなんて、ありえないだろう!


ああ、会長の甥とか、その話は最近聞いた。

でも、嫌いは嫌いだ。

次期会長として戻って来る?

戻って来ても、頭なんて下げねえ。

頭を下げたら、俺の負けだから。


それと、俺は光子夫人も嫌いだ。

いつも俺を疑うような目で見て来る。

(会長の財布から抜いているのを見抜いているようだ)

でも、現場を抑えられたわけでもない、気にする必要はない。

富士宮の実家の新築資金?そんなの言うわけがないだろう、馬鹿馬鹿しい。

田舎の人間は、「こすっからい」のが特徴。

簡単に尻尾は出さない、めげない、しつこい、そして金にはセコい、ズルいのが当たり前。(世渡りの極意と思うよ)


おっと、余談が長くなった。

今回、圭太に連絡をしたのは、「脅し」だ。

(いつも話し中だ、気に入らねえ、あの野郎!)

最近、どうも光子夫人が圭太の家に行くようだ。

それが気に入らない。

里子に出された娘のガキが偉そうな顔をするんじゃねえ!

話をしたかったら、お前が頭下げて来い。


それが、俺の育った富士宮では、常識だ。

「そんなことも、わからねえのか!」と、諭そうと思った。


気にかかるのは、圭太が経理に詳しいこと。

公認会計士なんて、くだらねえ資格を持っているようだ。

何かの拍子に、会長からの金くすねを知られたら、厄介だ。

それでなくても、会長は入院して、財布から取れねえし。


俺の飲み屋のツケもたまっているしなあ・・・池田商事の若い衆に払わせるしかねえし。

それも限度がある・・・立て替えさせといて、返せねえ、会長の財布から抜けねえから。


光子夫人が圭太に、俺に疑問を持って、圭太に変なことを吹き込むとか、それも厄介だ。

下手を打てばクビになる。

会長が復帰できなければ、俺の仕事も無いし。

(もう、今の時点で暇だ、何もすることがない)

クビになっても、田舎には帰れない・・・また噂になるし。

飲み屋のツケは払えない、現時点で・・・それも怖い。


圭太が池田に戻って、若い衆が圭太に密告すれば、その時点で、俺のクビは飛ぶ。

それが気に入らねえし、許せねえ。

里子に出した娘のガキに、クビにされるなんて。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る