第190話由紀と紀子の密談

由紀と紀子は、圭太と芳香の近くには座らない。

(いや、座れなかった)

ビルの共有スペースの昼食場所、誰が聞いているかわからない。

池田商事人事部山田加奈から由紀が聞いた「池田家と圭太の関係」など、話題にするべきではない。


結局、銀座監査法人内休憩室で昼食をしながらの、話になった。


由紀

「圭太さんが銀座監査法人に移って来る時に、池田商事の人事部の山田加奈さんと名刺を交換していて、先週、昼食場所で、偶然一緒に」


紀子

「そうか、どんな話に?」


由紀

「個室でお話しました、秘密にと」

「まず、圭太さんは、確かに池田商事創業家の血筋です」

「現会長のお姉様の子です」


紀子

「お姉様、圭太のお母様は、里子に出された、そんな噂だよね」

由紀

「池田商事は、現会長が脳梗塞で入院、奥様が臨時会長代理」

紀子

「それも・・・大変よね、奥様も経営には慣れていないし」


由紀

「それもあって、池田商事の役員会では、圭太さんを次期会長として、招請決議」

「池田商事は、創業家から会長を出すのが決まりなので」

「その交渉を光子会長代理に一任」


紀子は、眉をひそめた。

「圭太は、嫌がっているよ、行かないよ」

由紀

「ここからが、山田加奈さんの情報です」


紀子

「うん・・・何だって?」

由紀

「圭太さんは、池田商事で会長付秘書になる内示を拒んで、自主退職しましたが、会長の池田聡さんは、会長にさせたかったようです、その意図での内示でした」


紀子は首を傾げた。

「でも、圭太は、お母様の看病を優先した・・・それもすごいけれど・・・その話、不思議だよね、里子とはいえ、現会長のお姉様でしょ?」


由紀は声をひそめた。

「そこなんです、難しいのは」

「創業家の血を引く圭太さんのお母様の病状も、葬儀も、池田商事は把握していなかった・・・それは事実です」


紀子の顏が青くなった。

「圭太が言わなかった、個人的なこと、感染症拡大の時期とか」

由紀は、涙目になった。

「私の母も圭太さんのお母様と同級生で近所で仲良しでした」

「いつも怒っています、泣いていることもあって」

「直葬なんて・・・寂し過ぎる、可哀想すぎるって」

「圭太さんだけに重荷を背負わせてって・・・池田は、無神経すぎる、酷過ぎるって」


紀子は腕を組んだ。

「そんな池田に戻ることもない・・・確かに無神経にも、程があるよ、圭太が言わなかったとはいえ・・・把握不足なんて軽い言葉では言い切れない」


「でも、それ以上に何かあるよ」

「圭太が池田を拒む理由が」

「すごく深いかもしれない」


由紀は、話題を変えた。

「山田さんは、光子会長代理のお気に入りです」

「その情報によると」

「光子さんが、池田商事の混乱に困って、圭太さんに頭を下げて相談をかけたそうです」

「圭太さんは、噂として、人事案を示唆」

「その人事案通りに、異動させたら、混乱していた業務が早速直ったとか」

「その他のことも、山田さんが動いて調べるとかです」


紀子は、首を傾げた。

「その山田って人、何でそこまで?」

由紀は、また声をひそめた。

「圭太さんを戻して、会長付秘書になりたいと、もうはっきり」

紀子はムッとした顔。

「気に入らんなあ・・・それ・・・つぶそう」

由紀も、同調した。

「銀座監査法人のほうが、ステイタスは上です」

「それに圭太さんの監査は、厳しいけれど、喜ばれる監査」

「池田では、もったいないです」

紀子

「圭太を戻したくない」

由紀も、しっかり頷いている。

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