第189話圭太を不機嫌にさせた名前

圭太のスマホ画面に表示された名前は、「佐野好男」。

池田家の執事である。

(圭太は、池田商事時代は、総務部)

(圭太自身、池田家の墓掃除や屋敷の庭掃除に駆り出されことがある)

(池田商事の社員を、自分より格下に見て、怒鳴り散らした)

(出身は静岡県富士宮市の山奥、46歳)

(とにかく、陰険でしつこい)


圭太は、その「佐野好男」からの電話は無視した。

「池田商事は、既に辞めて、別会社の社員」

「池田家とも法的には無関係」

「先方に用事があっても、俺には無い」


それでも、スマホは鳴り続けるので、着信拒否にした。

「どうせ、ロクでもない用事だろう」


「ロクでもない用事」に付き合わされた元同僚の話を思い出す。

「会長の飲み屋のツケの支払いに行って来い!」

(夜の10時)(30万も立て替えさせておいて、支払いを渋る、数か月先にようやく、もあったようだ)

「会長の女のアパートに、酒を届けておけ」

「スナックに大事な書類を忘れた、取って来い(夜の11時、しかも新宿三丁目、極道のスナック)」


本来は、執事である佐野好男が、対応することに入ると思うが、佐野好男は、自分に面倒なことは一切しない。

池田家執事の立場をカサに、社員を奴隷のように使う。

ただ、使われる職員に、圭太は入っていなかった。

佐野好男が、「出世を望む奴は、俺の言うことを聞け」で、手をあげた社員を使っていたからで、圭太は、無関心を貫いたからである。


「結局、佐野のロクでもない用事をしてもしなくても、出世には無関係だった」

「人事も馬鹿ではない、そもそも佐野の言うことは聞かない」

「佐野の用事をこなす若い社員など、ボンボン経営の会長は知らなかった」



それでも、圭太は、河合紀子の心配そうな顔が気にかかった。

「ああ、ごめんな、不審電話だ」

紀子は、すぐに、圭太の内心を把握した。

「圭太に任せる、どうせロクでもない奴でしょ?」


圭太は、紀子のカンの良さには、笑う。

「かなわないね、君には」

紀子は、圭太に近寄る。

「腕組みたいけど、我慢してあげる」

「新婚早々だしねえ・・・」


圭太は苦笑い。

「やめとけ、嫁は、レスリング強いぞ」

「マウントをあっと言う間に取られた」

紀子は、気に入らない。

「おい!ノロケで返す?」

「この私を捨てておいて?」


圭太は、ヒラヒラと手を振った。

「その強い嫁が待っている」

「飯食って来る」

紀子が時計を見ると、確かに正午。

「お邪魔したいなあ、だめ?」

「正確には、割り込みたい」


圭太は、目を丸くする。

「まあ、同じビルで、お互いに面識もあるが」

「嫁に聞いておく」

そのまま、スタスタと芳香が待つ共有スペースに姿を消した。


残念がる河合紀子の前に、佐藤由紀が寄って来た。

「紀子さん、フラれましたね」

紀子は、苦笑い。

「強い嫁?レスリングで負けたとか言っていた」

由紀はプッと吹いた。

「まあ、圭太さんは、体格で芳香ちゃんに負けていますから」


紀子は、圭太と仲良くお昼を食べる芳香を見て、一言。

「でもさ、芳香ちゃん・・・なんか、憎めないの、嫌味がない」

由紀も芳香をじっと見る。

「確かに可愛いですよ、胸も大きいなあ、あの笑顔、輝き・・・妹キャラかな・・・圭太さんは胸が好きかも」

話題を変えた。

「紀子さん、池田の経営分析と、少し情報が入りそうです」

「人事部の山田さんって人と、この間、偶然お昼を一緒になりまして」


この後、紀子は、由紀の意外な「ヒット」に驚くことになる。

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