第187話圭太の体調安定 芳香と横浜デートの計画

圭太は、芳香に感謝している。

体調が安定したのは、芳香が作ってくれる食事を食べるため、とわかっている。

実際、以前の「エネルギーゼリーだけの生活」は、ふらつくことも多かった。

(エスカレーターや階段で頭がクラクラして、必死に耐えたことも多い)


芳香が、「母律子のレシピ」を見せてくれた時は、驚いた。

確かに、母の字で、いろんな料理のレシピが細々と書いてある。

と言っても、普通の日本の下町料理ばかり。

「肉じゃが」「きんぴらごぼう」「ほうれん草のおひたし」「湯豆腐」「魚の焼き方」「味噌汁の分量」「出汁の取り方」・・・どれも、当たり前過ぎるもの。

でも、圭太自身、そのほうが美味い。

(実に味覚は、安上がりと自覚する)


芳香に、「母律子と本当の祖母池田華代の関係」を説明するのは、まだ、ためらっている。

母律子を懸命に育ててくれた、里中家に、申し訳ないような気がするから。

(特に、不倫の子の母を押し付けられた里中の由美ばあさんに、申し訳ない)

(それは、母律子と祖母池田華代の想い以上に、優先するべきと思う)

そこまで思って、日曜日の予定が決まった。

「里中家の墓でも行くかな、入籍の報告をしないと」


圭太は、池田家や、池田商事とは、付き合いたくない。

池田光子は、信じられる人なので、「たわごと」を言っただけ。

今後、池田聡が脳梗塞から復帰できなくても、自分が関係するべきではないと思う。

池田で、どう、騒ごうと、変わらない。

ヘラヘラと動いたら、里中家に申し訳なさ過ぎると思うから。


「押し付けて、育てさせて」

「いざ、困ったら、孫が欲しくなって、よこせ?」

「手前勝手過ぎるだろう、それでは」

「応じるのも、情けない」

「ケジメがなさ過ぎる」


圭太が、そんなことを思いながら、緑茶を飲んでいると、芳香が隣にペタンと座った。

「圭太さん、週末は?どこかに?」


圭太は、迷ったけれど、素直に言った。

「里中家の墓に、報告する」

芳香は、うれしそうな顔。

「はい、旦那様、お花とお線香は、任せてください」


圭太は、墓参りだけでは、いかにも地味と思った。

「どこか、行こうか?」

「芳香の服でも」

芳香は、真っ赤な顏。

「え・・・マジにデートみたいですって」

「なんか、ドキドキします」


圭太は、その芳香が可愛い。

「ほとんど、デートもしていないな、ごめん」

芳香は、笑った。

「伊豆長岡で、圭太さんを襲いました」

「すごく、いい思い出です」

「仕留めたような感じですよ、圭太さん」

圭太は、珍しく、顏を赤くした。

「あの時は、驚いた」


芳香は、圭太の腕をガッチリとホールド。

「また、長岡も行きたいなあと、思いますし」

「圭太さんとなら、どこにでも」

圭太の頭に突然、浮かんだのは、横浜だった。

「芳香、横浜に行きたい、行きたい店がある」


芳香の目が輝いた。

「え・・・うれしい・・・」

「行きたい店とは?」

圭太は即答。

「元町のキタムラ」

「カバンの修理をしたいなあと」

「ついでに、サブのカバンを買う」

「芳香にも何か」


芳香のホールドが強くなった。

「あの・・・お揃いのカバンに・・・」

圭太は苦笑。

「わかった」

「ご飯も食べよう」

「中華街がいいの?それともフランス料理でもいいよ」


芳香は、笑顔。

「また、太るかな・・・でも、食べます、圭太さん」


圭太は、花が輝いたような、芳香の笑顔に、見とれている。

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