第186話芳香は、文金高島田を願う。
私、芳香は、驚くばかりだった。
池田商事会長夫人の池田光子さんと言えば、ご実家の割烹も含めて、かなり格上の女性。
その池田光子さんが、夜、申し訳なさそうに、圭太さんに逢いに来たのだから。
頭を下げて、圭太さんに必死にすがるような雰囲気で、圭太さんがようやく「助け船」を出すと、本当にうれしそうな顔をするのだから。
(圭太さんは、懸命に言葉を選んでいた。それだけ微妙な、深刻な、問題と理解した)
圭太さんと池田商事(池田家)の関係は、噂では聞いている。
でも、律子お母さまも言わなかったし、圭太さんも言わない。
(教えてくれるなら、聞く程度で、言いたくない事情もある、と察している)
とにかく、もう念願の嫁になった。
何があっても、圭太さんから離れないし、「出て行け」と怒られても、出て行かない。
(私は頑固です)(圭太さん以上に)(命がけですから)
(圭太さんを狙う人も多い)
(紀子さんも由紀さんも、仕事では一緒で、少し嫉妬する)
今、考えているのは、圭太さんの食欲を増すこと。
お肉とお魚だと、お魚好き。(すごくきれいに食べる)
(今は、律子お母様のレシピ、私の母のレシピを混ぜている・・・ほとんど同じだけれど)
(いつかは芳香オリジナルを食べさせたい、私にも意地がある)
やはり下町の男の人、そう思うと、うれしい。
(同じ空気を吸って、育った感がある)
(味覚が、全く同じなので)
お風呂は、毎日、一緒に入る。
圭太さんの身体を見たいからで、できれば太って欲しい。
体重計も買った。(毎日、乗せようかな)
私は・・・食べ過ぎで、おなかのお肉を減らしたい。(圭太さんに、あげたい)
「洗濯物を干す、たたむ」、「お掃除」、「料理の後片付け」は、圭太さんがマジに上手で速い。
「俺がやるよ」と、私を、休ませようとする。
(やさしい顔で)(気をつかっているのか、私が下手で見ていられないのかもしれない)
二人だけの時、圭太さんは、一言一言が、やさしい。
難しいことは、私には何も言わない。
(監査の仕事では、厳しく言っているようだ)
(それでいて、喜ばれる不思議な監査士、そんな噂も聞いている)
圭太さんらしいと思う。
根っこは、親切でやさしい人。
お酒は、滅多に飲まない。
コニャックがあったけれど、飲んでいない。
(監査で疲れた時は、飲んで欲しい、ご相伴します、旦那様)
次の課題は、本格的な引っ越しと、披露宴。
圭太さんと、相談した。
私からお願いした。
「お母様の新盆の後にしたい」と。
お盆で、律子お母様が、里帰りした時に、しっかり報告をしてからに。
圭太さんは、いつでも、いいらしい。
「もう、会長と専務に話をしたので、心配ない」
「親の代わりをしてくれると言ってくれた」
「上司も出てくれると」
「学友も呼ぶ」
(圭太さんは、うれしそうな顔なので、私もうれしい)
キュンとすることも言ってくれた。
「芳香のドレスも見たいな」
私は、ドレスも来たい。
でも、日本の、築地の下町からの嫁なので、「昔ながら」、がいい。
「文金高島田にしたいです」
(圭太さんは、ギュッと抱いて、頭を撫でてくれた)
(もう、それだけで、幸せで、ホロッとした)
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