第185話人事部長宮崎保の「評判」が高まる 山田加奈の思い

実際、今回の人事異動で、得をしたのは、池田商事人事部長宮崎保だった。

部下の山田加奈(圭太と同期入社、懇意だった)から聞いた、社内の評判では、


「総スカンをくらっていた陰険不倫暴行男の吉田満を追い払い」

「総会直前に総会対策のプロの総務課長を、総務部長に」

「苦労人の総務係長を総務課長に」

「地味だけど、仕事は堅実な佐藤絵里を係長に抜擢」

「山本美紀のアホミスを完全に修正、やっと仕事が落ちついた」

「さすが、人事部長、よく見ている」


当の宮崎保は、内心ホッとしていたし、社内の評判はうれしい。

総務部長になりたかったのは事実。

でも、神経をすり減らす総会の前には、総務部長にはなりたくないのも、本音。

そこで、総会対策のプロの総務課長川崎重行を総務部長に、は気楽になった。

川崎重行は、大学の後輩で、何でも話ができる。

(ここで恩を売るのも、悪い話ではない)

(退職後の役員就任も考えているので、念も押せる)

その後の、総務課長人事も、妥当。

山本美紀と佐藤絵里の人事は、平職員のことで、実際、どうでも良かったけれど、かなり評判がいい。


それでも、会長代理池田光子から聞いた時は、驚いた。

「わかりました、仰せの通りに」と頭を下げたけれど、就任直後の光子会長代理が、平職員のことまで知っているとは、把握していなかったから。

それを聴こうとしたら、機先を制された。

「風の噂、宮崎さんの手柄でいいよ」


「風とは何ぞや?」

人事部長席に戻って、考えていると山田加奈。

「圭太君が懐かしいです」

「あのクールな、切り捨て文句」

「その切り捨ては、仕分けみたいに、無駄とかゴミをスパッと切り捨てる」

「後で、ありがたくなる時があります」

「退職給与会計で、無駄な計算していて、それを指摘されて」

「その時は、ムッとしたけれど、あの時に言われて、後になって助かったなあと」


人事部長宮崎保も、圭太を思った。(感づいた)

「もしかすると・・・噂は、彼か?」

「会長代理は、人事部の手柄にと言ったけれど」


山田加奈は窓の外を見た。

「戻ってくれないかなあ」


人事部長宮崎保は、山田加奈の気持ちを察した。

「その時には、会長付秘書になりたいのか?」


山田加奈の顏が輝いた。

「はい、その時には、ビシビシと秘書します」

「とにかく、退職給与会計の借りを返したいので」

「あの言い方は酷かった」

「何しろ、お前、数字読めるの?ですから」


これには、人事部長宮崎保も苦笑。

「でも、そう言いながら、教えてくれたんだろう?」

「あれで愛想がよければ、いいなあ」

「でも、戻る気も何も、辞めた人だ」

「招請決議は出ているけれど、こっちの勝手なお願いでしかない」


山田加奈は、ため息。

「頑固ですから」


人事部長宮崎保

「そうでなければ、監査士はできないさ」

「しかも、評判では、キレキレの優秀な監査士」

「それでいて、相手先企業に歓迎される・・・珍しいタイプ」


山田加奈は、笑った。

「圭太君、どこに行っても同じです」

「仕事はキレキレ、でも、結局、重宝される」


人事部長宮崎保は、「圭太君に今回の恩を返したい」、と思い始めた。

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