第183話元社員の悪口として

圭太は、池田光子からの問いに苦慮した。

「総務部長についても?」


池田光子は、必死な顏で見て来る。

(かなり困っていることは、予想がつく)


(圭太自身、全く信頼していない総務部長だった)

(仙台支店で、人妻社員を地位をカサに無理やり襲ったことは、公然の秘密)

(それだけでも犯罪なのに、関係を重ねた、しかも無理やりに)

(妊娠させてしまった、総務部長の子であることは明白だ)

(人妻社員の夫は長期海外赴任中だから)

(その慰謝料やら教育費の捻出で、何も考えない山本美紀を騙して、会社の経費から払おうとする、それも何度も)

(不審な見積書と請求書なので、直属の上司に相談、全て止めた)


(それでいて、他人のミスは、かん高い大声をあげて叱責する)

(人事部長時代に、ミスした社員の降格が大好きで、乱発した:些細なミスであっても)

(だから、社員には嫌われるばかり)


(役員会への根回しは、上手)

(途中から、それだけで、のし上がって来た人物)

(社員より、池田商事の本来の仕事より、役員対応に顏を向けている)


圭太は、池田光子の顏を見た。

「発言がしにくくて」

「出来る立場でもないので」

(やはり、平社員はともかく、幹部職員には、ためらう)


池田光子は、必死な顏。

「いいよ、圭太君」

「思うことを言って欲しいの」

「決して、圭太君を池田に戻そう、そんなことではないの」

「元社員の悪口として、聞きたいの」


圭太は、そこまで言われれば、拒めなかった。

「では、あくまでも、元社員匿名の悪口として」

「株主総会前に、総務部長を他の人には、通常あり得ない」

「でも、公然の秘密が弾けた場合、彼を総務部長として、留まらせるべきかどうか」

「経営者の判断になります、よく、お考えに」


池田光子は、圭太に迫った。

「もし、彼を降ろした場合に、株主総会は誰が出来るの?」

(池田光子としては、人事部長を昇格させたくない)


圭太は、あっさりと即答した。

「総会事務は、多方面に神経を使うものです」

「そうなると、総会事務に慣れたベテランの総務課長が昇格するのが、トラブルが少ない」

「彼なら、役員会根回しも、無難に対応します」

「あくまでも、責任のない、元社員匿名の悪口として、お聞きください」


池田光子は、さらに質問。

「コンプライアンス委員会は、開いたほうがいいの?」


圭太は、ここでも返事が早い。

「公然の秘密を弾けさせて、会長判断で処分も可能です」

「下手な抵抗をされる前に、その方が改善が早く進みます」



ようやく、池田光子の顔が落ち着いた。

「ありがとう、圭太君、無理な話を」

「でも、頼ってよかった」

「相談できるのは、圭太君だけだもの」

池田光子は、律子の遺影を見た。

「律子さんも、やさしくてね」

「華代さんの病気の時とか、よく相談したの」


圭太は苦笑い。

「ほめられても、何も、元社員の悪口、酒場で悪たれているような話と」


池田光子は、芳香の手をしっかりと握った。

「圭太さんと鰻を食べに来てね、お金は取りません」


芳香は、顏を赤らめた。

「それでは、もったいなさ過ぎて」

「できれば、お料理も教わりたいなあと、圭太さんを食べさせたくて」


池田光子は、ますます、芳香を気に入った。

「まかせて、うれしい、いいお嫁さんね」

「もう、大好きです」


芳香の顏は真っ赤、圭太は、やさしい顔に戻っている。

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