第181話池田光子が新婚圭太家に

私、池田光子は、本当に恥ずかしい思いで、月島の圭太君のマンションに向かった。


池田商事役員会で「圭太君を役員招請一任」が決まっていることは、どうでもいい。

それ以前に、池田商事の日常業務そのものが、ガタガタに崩れているのが、情けなく恥ずかしい。


そもそも、会社として、日々の締めもできないなど、言語道断。

その仕事を担う総務部は、会社で言えば、扇の要。

扇の要の長、吉田満は、不倫問題で青息吐息。

その慰謝料教育費の捻出のために、様々な画策ばかり。

(圭太君が在籍時は、全てつぶしたと、総務部の佐藤絵里から聞いた)


ただ、次期総務部長を狙う人事部長宮崎保も、器の小さな男。

総務部長吉田満の失脚待ちなど、実に弱い。

自ら、池田商事の将来を担う、そんな展望は何も持たない。

総務部長になったところで、会社の発展はない。


国際部長の島田覚は、実は圭太君の為替分析に頼って、輸入品や輸出品の調整をして来ただけの男。(それを自らの手柄としているが、誰も認めない)

社内に、人望もない、ただ軽く派手なだけの男。


営業部長の杉田正は、「今まで通りに売るだけ」の男。

「営業のエース」鈴木亮がいたから、営業成績は、一応の増加はあったけれど。

ただ、その鈴木亮は、人事異動の不満(圭太君を厚遇、自分が負けた)で、婦女暴行罪で逮捕なのだから、監督責任も重い。

そもそも、経理には疎くて、決算書を、まるで理解できない。


「こうなると、次の総務部長は誰?」

「誰も、まともな人はいない」


そんなことを思っていたら、圭太君のマンションの前に着いた。

「私一人で行きます」

今日の運転手は、池田家の使用人、山本可奈子。(実家の割烹から連れて来た)

山本可奈子は、いつも冷静なので、信頼が置ける。

「わかりました、奥様、お待ちしております」


圭太君の部屋のチャイムを、押した。(手が震えた)

「池田です」の声も、震え気味だった。


「はい、少しお待ちください」

若い女性の声が、聞こえた。

私は、耳を疑い、目も疑った。(部屋を間違ったかと思った)


マンションの玄関ドアが開き、その若い女性が顔を出した。

「池田様、お待ちしておりました」


私は、目を見張った。

実に健康で愛らしい顔。(お肌もピカピカに輝いている)


若い女性は、ハキハキと話す。

「主人から、説明がありますので」


「主人?」

(声には出さなかった)

(圭太君が結婚なんて、何も聞いていなかったから、本当に驚いた)


馴染みのある居間に案内された。

確かに圭太君の顏が見えた。


圭太君が、立ちあがった。

「どうぞ、こちらへ」

ソファに案内された。


ソファに座っても、池田商事の前に、若い女性のほうが気になる。


その若い女性が、お茶をテーブルに配り、圭太君の隣に座った。

圭太君は、少し顔を柔らかくした。


「嫁の芳香です」


「芳香さん」の顏が、パッと赤くなった。


つられて、私も顏が赤くなった。

(とにかく、二人が幸せな感じ)

(私まで、うれしくなってしまうほどに)

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