第176話佐藤家と河合家の落胆

佐藤由紀が自分の部屋から出たのは、午後5時過ぎ。

居間で、母芳子が、心配そうな顔で待っていた。

(待ち構えていた)


芳子は、ズバリと言い当てた。

「圭太君にフラれたの?」

「それにしても、なんで、早退なの?」


由紀は、そのままを話した。

(圭太が、平野芳香と入籍を今日の午前中に済ませたこと)

(聞いたら、もう、仕事にはならなかった)

(平野芳香は、圭太の父の死を招いた女の子、圭太の母律子と、その後親しかったこと)


母芳子の顔色が変わった。(一瞬青くなり、すぐに赤くなった)

「それは・・・縁が・・・深い」

「律ちゃんは・・・その芳香ちゃんを認めて」

(母芳子は、圭太の母律子と同級生)


「うわ・・・半端ではないよ」

「とても、立ち入れないよ、そんな深い縁には」


由紀は、母芳子に話して、落ち着いた。

「芳香って子は、確かにしっかり者」

「圭太さんをコントロールできるから、入籍まで」

「私は、迷惑ばかりだった、申し訳ない程に」


母芳子は、娘由紀の肩を抱いた。

「ここは、きれいさっぱり」

「変に絡んだら、由紀の女がすたる」


由紀は、素直に頷いた。(この時点では、素直だった)

ただ、母芳子に、聞きたいことがあった。

「ねえ、母さんは、圭太さんのお母様と同級生だよね」

母芳子

「うん、高校生の頃からね、可愛くてやさしい律ちゃん、クラスの人気者」


由紀

「その律子さんが、池田商事の血縁って聴いたことある?里子とか、そんな噂が池田商事から」


母芳子は、首を横に振った。

「いや・・・全く・・・里中律子さん、お父様が大蔵省の大幹部は聞いたよ」

「月島の家でも、そんな話はなかったよ」





さて、河合紀子も、田園調布の家に帰り、両親に「圭太のこと」を「報告」した。


予想通り、両親は驚いた。

父淳司は、呆然としている。

「今時・・・いきなり入籍?」

「しかも、お父さんの事故の時の?」

「いや・・・考えれば考えるほど・・・重くて深い・・・縁だ」


母公代は、肩を落とした。

「圭太君なら紀子にも、我が家にも、いいなあって・・・」

「でも・・・圭太君に、その気がなかった・・・」

「その芳香さん・・・うん・・・半端な子ではないね」

「女の度胸って言うのかな・・・」

「律子さんも、受け入れて来たなんて、すごいよ・・・私なら、どうかな」


紀子は、話題を変えた。

「ねえ、圭太さんのお母さんと池田商事が血縁って聴いたことある?里子とか」


父淳司は首を傾げた。(律子の父里中寛治の大蔵省時代の部下だった)

「いや、それは知らんな、里中寛治さんの娘さんとだけだよ」

「まあ、俺は新米で、そんなことは聴けなかったけどな」


母公代も首を横に振った。

「亡くなった隆さんも、律子さんも、そんなことは一言も」


両親が知らないと言うのだから、紀子は、どうしようもない。

話を戻した。

「でも、圭太は、私とずっと仕事はしたいって、言ってくれた」


父淳司は、顔をやわらげた。

「そうか、銀座監査法人を二人で支えてくれ、評判が高いよ、最近の噂で」

母公代は、紀子をじっと見た。

「紀子、もう、どうしようもないと思うよ」

「紀子に任せます、それも人生だから」


紀子は、そこまで話して、自分の部屋に入った。


途端に身体の力が抜けた。(緊張も、冷静を装ったポーズも、全て解けた)


必死にベッドに飛び込んだ。


大泣きになった。(泣き声も涙も止まらない)

「圭太・・・好きだよ・・・」

「何で?何でそんな重い荷物を?」

「苦しむよ、絶対!・・・」

「私は、昼間だけの?仕事だけの女?」

「圭太!それでいいの?私は嫌!」

「何を今さら?うるさい!」


紀子は、しばらく泣く、それしかできることは何もなかった。

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