第174話池田商事総務部長吉田満の本音と不安 人事部長宮崎保の仕掛け
池田商事総務部長吉田満は、本音として、田中圭太の池田商事への復帰は望んでいない。
かつては部下だった人間、会長付秘書という名誉ある内示を拒否して自主退職した人間、それを気にしているわけではない。
それ以上に、圭太の厳しい目が、実に不安なのである。
吉田自身の仙台支店の女性社員との問題(人妻:妊娠させてしまった)については、圭太も知っている。
公けにならなかったのは、自分が総務部長権限で、社内を抑え込んでいたから。
それと、社内の何らかの経費(接待交際費、研修費)等に細工をして、「慰謝料と教育費の捻出」もたくらんでいたことも、圭太は知っている。
(何も考えない山本美紀に起案させた、見積書は、誤魔化した)
(しかし、そのたびに、何度も事前に察知され、圭太が動き、総務、人事課長決裁を止められた)
「あんな奴が役員になれば、俺のほうが懲戒解雇だ」
「そうなれば、退職金不支給」
「とても慰謝料どころではない」
「今の妻子も家も失い、仙台ともトラブルが続く」
それを考えれば、圭太が池田商事復帰を拒んでいるのは、誠に好都合。
また、池田商事への復帰招請は、池田光子臨時会長代理に一任だから、自分の責任は無い。
(これも、吉田満が全役員に根回しをした)
(無気力役員ばかりなので、簡単に成功した)
それ以外に気にかかるのが、部下である総務課長川崎重行、係長三橋義夫が、圭太復帰を望んでいることと、人事部長宮崎保の動き。
「総務課長も、係長も、圭太がいたから決算が出来た」
「山本美紀のミスは全てフォローしていた」
「その圭太がいないのを、本当に嘆いている」
「人事部長は、かつて決算前に圭太に退職給付会計の間違いを指摘され、かなり助けられたから」
「それと、次の総務部長の席を狙っている」
「だから、俺のミスを大っぴらにするチャンスを狙っている」
「意地でも辞められない、あの女とは合意の上と突っ張る」
さて、人事部長宮崎保は、出身が京都。
その関係もあって、京都支社での勤務が長かった。
仲がいいのは、国際部長島田覚。(島田も京都出身)
今夜も、丸の内の高級居酒屋(個室)で酒を酌み交わしている。
宮崎保
「圭太君を戻したいな、申し訳なくて」
島田覚
「吉田満も底意地が悪いよな、会長の看病で大変な奥様に招請一任なんて」
「役員への根回しだけは、上手だ」
宮崎保は話題を変えた。
「例の仙台の件は、奥様も承知だ・・・そろそろ?」
島田覚はプッと吹く。
「お前が奥様に耳打ちしたんだろ?その上、芝居まで打って」
「でも、あれは、酷過ぎるよな」
宮崎保
「人妻に無理やり迫って孕ませて・・・大トラブルか」
「今までは、会長も女好きだから、誤魔化せたけどな」
島田覚
「吉田も・・・退職金がなければ、怖いことになるな」
宮崎保は含み笑い。
「俺が決裁しなければ、退職金不支給かな」
島田覚は厳しい顔。
「女もクビだ、不倫は放置できん」
「そんなことを放置するから、社内の風紀が緩む」
宮崎保は、話題を戻した。
「何か圭太君を戻す・・・策はないかな」
「彼が戻れば、俺が総務部長」
「島田が人事部長か」
島田覚
「俺は、国際部長でもいいよ」
「圭太君と国際分析も好きだから」
「京都の物産を、どこに売るか、昔議論して面白かった」
宮崎保が頷いていると、居酒屋の個室ドアがノックされた。
総務課長川崎重行と、総務係長三橋義夫が笑顔で入って来た。
総務課長川崎重行は、意味深な笑い。
「吉田さん、またトラブル長電話ですよ」
総務係長三橋義夫も続く。
「仙台支店の番号でしたから、例の女からです」
「それが最近続いて、もう総務部全体から、総スカンです」
宮崎保は、深く、愉し気に頷いている。
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