第172話法律事務所長室で所長と芳香 圭太と駄菓子?
芳香も、法律事務所長室で、所長の山田雅夫に、呼び止められていた。
所長山田雅夫。
「本当におめでとう、いい旦那さんだね、私もうれしいよ」
芳香は、赤い顔。
「ありがとうございます、がんばります」
所長山田雅夫は昔を懐かしむ。
(実は芳香と、圭太の父隆との事情を知っていた)。
「私は、圭太君のお父さんの隆君とは同期に弁護士になった」
「実に面倒見が良くて、男気があって・・・」
「いずれは、すごい仕事をすると思っていた」
芳香は、途端に潤んだ。
「本当に。申し訳なくて」
所長山田雅夫は、首を横に振る。
「誰も、今さら、芳香さんを責めないよ」
「隆君も、そんなことは思っていない」
「芳香さんを救えて良かったと、そう言うよ」
「律子さんも圭太君も、芳香さんが好きで、大切にしたいと思っているよ」
「とにかくおめでとう」
芳香は、涙を流して、頭を下げた。
「ありがとうございます」
所長山田雅夫は、話題を変えた。
「芳香さん、圭太君が池田商事の池田家と関係があるのは聞いたかな?」
芳香は頷いた。
「噂では聞きました」
「でも、圭太さんからは、何も聞いていません」
「律子お母さんからも、何も」
「圭太さんが、池田商事の会長夫人の光子さんと一緒に出掛けるのは、何度も見ました」
所長山田雅夫は頷いて、話を進めた。
「会長の池田聡さんが脳梗塞で倒れて、復帰が未定」
「それで、今は奥様の光子さんが臨時会長代理」
「池田聡さんの実のお姉さんが、律子さん」
「里子に出されていたそうだ」
「何となく、事情はわかるが」
「それで、圭太君を池田に役員、次期会長として戻したいと」
「役員会では決まったようだ」
「役員から聞いた話で、既に出回った話ではあるけれど」
芳香は頷いた。
「確かに、律子お母様の四十九日の法事に、池田商事から多く」
「圭太さんからは、あちらのご厚意とだけ」
「何となく、元社員以上の関係があるのかなとは」
所長山田雅夫は、芳香の顏を覗き込んだ。
「芳香さんは・・・どう?」
芳香は、にっこりと笑った。
「私は、嫁です」
「どこに行こうと、旦那様について行くだけです」
「それより欲しいのは、子供です」
「とにかく元気な子供を二人か三人」
これには、所長山田雅夫も笑った。
「いいね、それが大事なこと」
「まずは、新婚所帯で、暮らしを固めないとね」
「そのほうが大事だよ」
芳香は、また笑う。
「私には圭太さんしかいません、目に入りません」
「圭太さんを幸せに支える、それで生きていきます」
所長山田雅夫は、旧友田中隆を思った。
「ああ・・・頼むよ、泣けて来る」
(突然、感極まったのか、泣いてしまって話が続かない)
所長室を出て、芳香はメモ帳を見た。
「一週間の献立表」が書いてある。
「今日のおかずは肉玉野菜炒め・・・近所のスーパーで」
「基本は夜はお肉系で、サラダを大盛り、お味噌汁の具はお豆腐とネギにしよう」
「牛乳と玉子も買わないと・・・とにかくタンパク質が不足しているから」
「健康なお父さんにしたいな、おなかが出てもいいや」
「あ・・・ビール飲むのかな、日本酒かな」
「今夜から、晩酌したいな」
少し歩いて、圭太の母律子から教えてもらったことを思い出した。
「圭太は、駄菓子が好きなの、お洒落なお菓子は食べないよ」
芳香は、うれしくなった。(芳香も下町育ち、駄菓子系だから)
「圭太さんが駄菓子を食べる顔、見たいなあ」
そのままメモ帳に、大きく「駄菓子」と書き込んでいる。
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