第163話圭太と芳香の伊豆長岡③平野家と話がまとまる。

圭太自身、芳香の求めに、無抵抗になる、そんな自覚がある。

親父は、道路に飛び出した芳香(小学生の時)をかばって、かわりに車に轢かれて死んだ。

ただ、だからといって、芳香を憎む気はない。

むしろ、むしゃぶりついて来る芳香は突き放せない。

(紀子を含めて、他の女には、簡単にできるのに)

恋とか、愛とか、そんな軽い言葉ではない、そんな思いがある。

何か、理屈ではない、もっと強い力で、引き寄せられているような、「感覚」。

そして、しっかりと芳香の想いに応えたい、応えねば、その気持ちが強い。



芳香は快感で肌を赤くしながら、圭太を何度も求め、思いをぶつけた。

「お父様のお葬式で、圭太さんに、むしゃぶりついて泣いて」

「圭太さんに抱かれて、うれしくて・・・身体が震えて」

「その時に決めました」

「私が圭太さんの嫁になりたいって・・・」

「こんな私を・・・抱いてくれてうれしい」



家族風呂を出て、圭太と芳香は、部屋に戻った。

昼食は、部屋に届けさせた。(レストランでは、芳香の顏が赤すぎて無理)

海鮮丼とお吸い物が運ばれて来た。


芳香は、ここでも圭太の世話を焼く。

「しっかり食べてくださいね」

「残さないように」

圭太は、そんな芳香が面白い。

「世話女房になるの?」

芳香は、胸を張る。

「世話女房・・・それもいいかな、でも嫁がいい」

圭太は、目をクルクルとさせて考える。

「どう違うのかな、わからない」

芳香は、豊かな胸を揺らして答える。

「ずっと、小学生の頃から、圭太さんの嫁になる、そう思って生きて来たので」

「嫁のほうが歴史が古いんです」


海鮮丼を食べ終え(圭太は完食)、圭太は芳香の髪を撫でた。

「ご両親に連絡する」


芳香は、「はい」と、小さな声。

圭太は、そのままスマホで芳香の「家の電話:固定電話」に電話をかけた。


電話に出たのは、芳香の父保だった。


圭太は、冷静に事実を告げた。(実は叱られるかも、と思っていた)

「今、伊豆長岡の温泉で、芳香さんとご一緒しております」

「本来なら、事前にご了承をいただくべきでありましたが」


芳香の父、保は、ほがらかな声で笑った。

「あはは、こちらこそ、申し訳ない」

「芳香が無理やり押しかけた、それは、知っていました」

「むしろ、受け止めてくれてありがとうございます」


圭太は、予想外のことに、面食らった。

しかし、冷静に戻り話を続けた。

「突然のことで申し訳ありません、明日、芳香さんとのことで、大事なお話をいたしたく」

「ご都合はいかがでしょうか」


芳香の父保の声は、明るい。

「はい、ありがとうございます、了解しました」

「それで、妻が話したいことがあるようで、隣におりまして」


直後、芳香の母和美に電話の相手が変わった。

「圭太君?芳香をありがとうございます」

「ふつつかな娘・・・それは明日で正式に」

(声が焦っている)(芳香は圭太の隣で聞いて吹いている)

「それでね、私たちの家でもいいけれど」

「圭太君のお父様とお母様の前で、お話したいの」

「あ・・・芳香から聞いたかな?」


圭太が、「わかりました」と答えると、和美は続けた。

「ねえ、圭太君、せっかくの伊豆、しっかり食べて来て欲しいの」

「とにかく、体重を戻してね、今のままでは夏が心配」


話が長くなりそうな感じになり、圭太が困っていると、芳香が圭太からスマホを取った。

「母さん、干物は送るよ、新幹線で匂うから」

「他に欲しいものは?」(圭太は聞いているだけの状態)

「え?温泉饅頭?うん・・・黒柳ってお店?」

「甘エビの塩辛?そんなのあるの?」

「お父さんが欲しいの?ふーん」

「後は圭太さんに任せる?」(圭太は、目をクルクルとさせて考えている)


ようやくスマホが圭太の手に戻って来た。

「それでは、明日の午後1時に、私の家でよろしいでしょうか」

「その後、少し歩いて、佃住吉様に報告を」


芳香は、圭太に抱きついた。(また、泣いている)

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