第161話圭太と芳香の伊豆長岡①

翌朝、圭太と芳香は、いつものように一緒に朝食。

午前8時にタクシーで東京駅に、そのまま新幹線と伊豆箱根鉄道を乗り継いで午前10時過ぎに、伊豆長岡に到着。

(車内では雑談を少し)

(途中から、芳香は圭太の肩を枕に、寝ていた)


圭太が心配していた芳香のホテルの部屋は、簡単に取れた。

(感染症で客が減っていたため)

ホテル側の配慮で、圭太と芳香は隣の部屋になった。


一旦別室に入り、圭太は、安心しながら、少し考えた。

「まず、同室でないことは、安心だ」

「親御さんも、不安だろうから」

「何故、俺みたいな無粋な男との旅行を承諾するのか、意味不明だが」


圭太は、深いため息をつく。

「これでは、骨休めにならん」


紀子の顏が浮かんだ。

「あいつなら、何も気にしないが」


隣の部屋のドアが開いて締まる音が聞こえた。

「風呂でも行くのかな」

「一日中入れるらしい」

「まあ、俺から声をかけることもない」


ただ、そんな圭太のボンヤリは、芳香には通じなかった。

ノック音と「芳香です」の声、圭太がドアを開けると、浴衣姿の芳香が入って来た。


圭太が「何の用なのか」と、押されていると芳香は、部屋のベッドの上の浴衣を手に取った。

「圭太さん、温泉ですよ、浴衣に着替えましょう」


圭太は、また断れない。

「ああ、そうだね、着替えるよ」(芳香が部屋にいるので焦る)

部屋は、畳の場所と窓側のベッドの場所に分かれているので、圭太はベッドの場所で着替えた。

(芳香が見ていたけれど、追い出せなかった)


着替えが終わって、芳香と一緒に温泉に向かう。

芳香は圭太に寄り添った。

「一緒の部屋でも、よかったなあと」


圭太は、芳香の「肉感」から、身体をずらす。

「芳香さんは、未婚の娘さん」

「もう少し、節度が必要かな」


芳香は、「フン」と笑い、圭太と腕を組む。(豊かな胸は、しっかり当たっている)

「私、気にしませんよ、そんなこと」

「圭太さんが命ですから、圭太さんだから離さない」

「親も公認、でも公認でなくても、圭太さん命です」


少し圭太が黙っていると(返事ができかねた)、立ち止まった。

「圭太さんがどうしても私を嫌いなら、帰ります」

(潤んだ目で、見つめる)


圭太は、また困った。

「そうでなくて・・・」

「芳香さん、可愛過ぎて、まぶしい」

「ドキドキして、何を言っていいのか」(本音が出てしまった)


芳香の顏が赤くなった。

「嫌いでなければ、可愛がってください」

圭太は、静かに頷く。

(ここで恥ずかしいトラブルを起こしたくなかった)

「ゆっくりしようよ、せっかくの骨休め」


芳香に、花のような笑顔が復活した。

「安心しました」


芳香は、通りがかった従業員に、「家族風呂の場所と、予約状況」を聞く。

聞き終えて、圭太の顏を見た。

「今日は、予約がないそうです」


圭太は、また返事に困った。

「家族になってからでは?」

芳香は、圭太の腕を取った。

「私も裸は、恥ずかしいんです」

「でも、圭太さんに、決めました」

「圭太さん、嫌いでなかったら、入りましょう」


圭太は、拒まなかった。

(芳香の思いを受け止めた)

芳香の手を自然に握り、家族風呂に向かって歩き始めた。


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