第160話圭太の池田との噂が広まる 池田光子と圭太

夕方5時、業務終了の時間になった。

圭太は、池田光子の差し向けた車(今回は池田商事の公用車だった)に乗り、銀座監査法人を後にした。


河合紀子、佐藤由紀、平野芳香は、その圭太に、声をかけられなかった。(ただ見送るだけ)

(とにかく圭太は、厳しい表情)

(圭太と池田家の関係も、噂で入って来ていた)

(池田商事の役員たちが、かん口令を破っているらしい)


不安そうな女子3人に、専務高橋美津子が声をかけた。

「圭太君の性格は、わかっているでしょ?」

「安易な発言も、行動もしない人」


河合紀子

「まさか、役員で池田商事に戻るなんてありえませんよね」

佐藤由紀

「圭太さんは、頑固だから、ないと思います」

「いろいろ複雑で、よくわからないけど」

平野芳香

「私は、圭太さんが、どこにいても同じです」

「ただ、近くにいたいだけ」


専務高橋美津子は頷く。

「圭太君は、監査に向いているよ」

「将来は、銀座監査法人のトップを張るべき人」

「池田に戻したら、大損失になる」

「戻るんだったら、とっくに戻っている」



圭太は、池田光子の実家の料亭に入った。

一番奥の個室で、池田光子が待っていた。

「ごめんなさいね、圭太君、お疲れなのに」

圭太は、「お見舞い」を池田光子に渡す。

「まずは、会長の状態は不安ですね、お見舞い申し上げます」

池田光子は、少し慌てた。

「お見舞いなんて・・・」

圭太は頭を下げた。

「母の法事にもいらしていただきましたので」

「深く考えないでください」

池田光子も頭を下げて、圭太からのお見舞いを受け取った。


圭太

「これから大変ですね、臨時会長代理とか」

池田光子は苦笑。

「まあ・・・他にやる人もいないから」

真顔になった。

「圭太君には、迷惑をかけないよ」

「役員が、くだらないことを言いふらしていても」

「戻る、戻らないは、圭太君に任せます」

圭太は頷く。

「血縁と言っても、追い出された娘の子」

「当の本人は、会長命令の人事、しかも会長付け秘書を拒否して自主退職した人間」

「戻る方が、不自然と思います」

「それと、監査が天職かもしれない」

池田光子は、満足そうに頷く。

「確かに、評判がいいわね、高橋美津子さんも杉村会長も喜んでいます」

「池田で、吉田満とか、宮崎保みたいなボンクラに苦労するより、いいと思います」


圭太が苦笑いをしていると、話題を変えて来た。

「もう一度、圭太君の家に行きたくて」

「へその緒を届けさせて欲しいの」

「池田華代の代理として」

圭太は、頷く。

「あの動画は、ただの孫として、作りました」

「池田も、里中も、田中も関係ないです」

「おばあ様に、少しでも力をと」

池田光子の目が、途端に潤んだ。

「あれは、うれしかった・・・」

「ほぼ臨終間際の華代さんが、目を開いて、うれしそうに笑って」

「ようやく幸せかな、娘と孫の顏を同時に見て、その幸せな思いの中、天国に」


圭太は、やさしい顔。

「光子さんは、好きです」

「母も逢いたがっているかと」

池田光子は圭太の手を握った。

「圭太君だけが・・・安心できる・・・」

池田光子は、そのまま、泣き出してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る