第158話会長室での密議 圭太の不機嫌

専務高橋美津子は、池田光子との話を終え、会長杉村忠夫に「報告」をする。

「圭太君と池田家の関係は、事実とのことでした」

「深い事情は言えないとのことでしたが」

「圭太君のお母様の律子さんが池田華代さんの実の娘」

「それで、池田聡が、いろいろと動き始めていたようです」


会長杉村忠夫は、深く頷く。

「圭太君の人事異動、会長付秘書だったかな」

「圭太君は、そうなると夜の接待にも同行を命ぜられる」

「しかし、お母様の律子さんが万が一の時に、すぐに動けない」

「それが困るから、異同内示を拒否して、自主退職」


専務高橋美津子は、沈んだ顔。

「圭太君は、律子さんの病状を池田商事に報告していなかった」

「個人的なことに過ぎると、圭太君らしいのですが」

「感染症拡大期で、家族葬が主流だったこともあるようです」


会長杉村忠夫が続けた。

「律子さんの里中家は、律子さん以外に子はなくて」

「お父さんの田中家も、若くして亡くなった隆さん以外に、子はない」

「そして両家の祖父母は圭太君が生まれる前に亡くなっている」

「だから律子さんの葬儀の時、親族はいない」


専務高橋美津子の目に涙が光った。

「律子さん、可哀そうに、直葬だったようです」

「見送ったのは圭太君だけ」


会長杉村忠夫

「池田聡は、まさに、のん気なボンボン」

「圭太君の存在に気づいていながら、ケアをしなかった」

「ようやくケアしようと、会長付秘書に、と思ったら」

「圭太君は、律子さんのことを言わずに自主退職」

「しかも、懲戒解雇も覚悟してか・・・」

「すれ違いも酷過ぎる、今さら戻そうとしても」


そこまで言って、会長杉村忠夫は話題を変えた。

「高橋さん、上の階法律事務所に、平野芳香さんという女の子がいてね」

専務高橋美津子は、プッと吹いた。

「あ・・・圭太君と、一緒に通勤して来る可愛い、ハツラツとした娘さん」

「お昼にお弁当を仲良く食べている・・・あの圭太君が押されています」


会長杉村忠夫は、声を小さ目にした。

「あの娘さん・・・圭太君のお父さんが亡くなった時の子だよ」

「確かな話、彼女のお父さんと懇意で、そっと教えてくれた」

専務高橋美津子は、驚いた。

「え・・・私もお葬式に出ました、律子さんの親友でしたので」

「そう・・・だったんですか・・・」


会長杉村忠夫は微妙な顏。

「圭太君はそれを知っていて、それでもなお・・・拒まないか」

「大きな人間だよ、俺なら、ためらうかも」

専務高橋美津子は、少し考えて発言。

「圭太君から迫ってはいない、圭太君はそういう性格ですから」

「その平野さんが、特別な思いかな、圭太君に」

「うれしそうに圭太君に食べさせて、世話女房みたいですよ」


会長杉村忠夫

「佐藤由紀は、高校の後輩」

「感情的な性格、酒乱・・・難しいよな、圭太君には合わない」

専務高橋美津子は、ため息。

「河合紀子が、うらめしそうに、二人を見ています」

「圭太君と大学で同級生で、フランクに言い合える仲」

「河合紀子は、圭太君に惚れていて、昔からかな」

「でも、圭太君は、引いている感じ」

「だから、追いかけられるのかな」


会長杉村忠夫が、話をまとめた。

「圭太君の彼女は、圭太君に任せる、良縁を願うが」

「それから、銀座監査法人としては、圭太君を池田商事には戻さない」

「その方針で行く、なるべく早く、役職につけよう」

「将来は、ここでトップを張るべき存在なのだから」


専務高橋美津子は、深く頷く。

「池田光子さんは、圭太君の判断に任せると言われておりました」

「圭太君には戻る気がないので、守りましょう」


会長室での話はともかく、圭太は監査業務に専念している。

その圭太に、河合紀子がピッタリと張り付く。

圭太がボソッとつぶやいた。

「この研修経費、気になる・・・と言うか、気に入らない」

河合紀子は、圭太の言葉が短過ぎるので、まだ理解できないようだ。

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