第157話池田光子の怒り
池田光子は、圭太との電話の後、総務部長吉田満を呼びつけた。
「何の思惑で、圭太君に電話をしたの?」
(かなり厳しい口調で)
総務部長吉田満は、うろたえた。
(まさか、叱られるとは思っていなかったらしい)
「あ・・・いや・・・圭太君は・・・転社したとは言え」
「元、部下なので、一言連絡をしようと・・・」
池田光子は、ますます腹が立った。
「そもそも、私に一任と、役員会で決議したことを、総務部長自ら破ったの?」
「役員会決議は、総務部長の一存で破ることが出来る、そんな軽いものなの?」
「それと、圭太君とか、元部下とか・・・」
「吉田さん、何様のつもりなの?」
「仮にも、役員として、次期会長として迎えようとする圭太君に対して」
「一介の社員が、そんなに軽視していいものなの?」
総務部長吉田満は、その身体を震わせ、まさに平身低頭。
「いや・・・軽はずみなことを・・・」
「実に申し訳ありません」
と繰り返すのみ。
池田光子は、厳しい言葉を続ける。
「圭太君を役員として迎えながら、元上司をチラつかせて、意のままに操ろうとでも?」
「実に、無礼千万な社員と思いますよ」
「そんなくだらない動きをする前に」
「日々の締めも、まともにできない総務を何とかしなさいよ」
「今回の役員会の資料も誤字だらけ、圭太君の時は、一文字もなかったのに」
「池田華代さんの社葬も、業者任せで、実に恥ずかしい」
「先代の社葬は、総務がしっかり受付ができたのに、何故、吉田さんの時はできないの?」
「あなたには、管理能力も指導能力もないの?」
「池田聡に取り入るだけで、他は浮気放題?」
(ここで、吉田満の肩がビクッと動いた)
「そのくせ、他人の小さなミスが大好きとか」
(池田光子の口調に、強いトゲがこもる)
池田光子の厳しい話に、総務部長吉田満は、真っ青な顏で、意気消沈。
「本当に申し訳ございません」
(仕事の話なら、多少の反論ができるけれど、特に浮気問題が知られていると怖い)
※吉田満の浮気問題:仙台の人妻(現池田商事社員):現在吉田満の子を妊娠中でトラブルになっている。
ガクガクと震える吉田満をそのままに、池田光子は人事部長宮崎保を呼んだ。
「宮崎さんは、セクハラ調査委員会の委員ですよね」
「仙台支店の一件、内部通報らしいけれど、何故、不問なの?」
人事部長宮崎保は、震えるばかりの総務部長吉田満に目をやって、言い辛そうな顔。
「それは・・・吉田委員長判断・・・でして」
池田光子が総務部長吉田満と人事部長宮崎保を締めている時間、監査業務に専念していた圭太は、会長室に呼ばれた。
(会長杉村忠夫と、専務高橋美津子が待っていた)
会長杉村忠夫は、圭太の顏を見て、ゆっくりと話す。
「池田商事の某役員から情報が入った」
「会長池田聡君が脳梗塞で倒れ、緊急入院」
「すぐに回復できないので、奥様の光子さんが、臨時の会長代理に選任された」
圭太は、「そうですか」と頷き、表情を変えない。(池田との関係を知られたくない)
会長杉村忠夫は、圭太の顏を覗き込んだ。
「圭太君は、池田家の唯一の血縁で・・・次期会長として招請決議になったようだ」
「その役目を光子臨時会長代理が担うとか」
圭太は、眉をひそめた。
「それは、初耳です」(ここでも、余計な反応はしたくない)
専務高橋美津子は圭太の表情が厳しいことに、感じるものがあった。
「戻る気は・・・ないのかな?」
圭太は、即答。(実に厳しい顔)
「はい、全くありません」
「戻る立場でもなく、理由もありません」
少し間をおいた。
「私は、私の人生を生きたいので」
圭太は、それ以上の余計なことを言わず、一礼して会長室を出て、監査業務に戻った。
会長杉村忠夫は、深く目を閉じた。
「ようやくわかった・・・そうだったのか・・・」
「圭太君は・・・帰らないだろう・・・返したくない」
「あまりにも、池田は身勝手過ぎる・・・打開策を考えよう」
専務高橋美津子も、頷いた。
(スマホが鳴り、「池田光子」の名前が表示されている)
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