第155話圭太は返信を保留 池田商事役員会
スマホを手に、圭太は考えた。
池田光子と、唯一接点(交渉中のもの)があるとすれば、池田華代と母律子の、「へその緒」である。
池田家として、その「へその緒」を圭太に渡す是非を決めたのか、と圭太は思った。
しかし、池田商事総務部長からの電話が不明。
そもそも、会長命令の人事異動を拒否して退職済みの自分に、何を言うのか、言うとしたら「在職中の文句」でも言って来るのか。
ミスはした記憶はないけれど、無理やり「圭太のミス」に仕立て上げて、怒って来るのか。
いずれにせよ、相当な覚悟を持って電話に出るべきと考えた。
ただ、圭太は、すぐには折り返し電話をしない。(保留した)
まずは、目の前の銀座監査法人の仕事を優先するべきと考える。
「池田家から縁を切られた娘の子」「池田商事を辞めた人間」であることを考えれば、自明の理なのだから。
圭太は、昼休み、平野芳香との昼食を終えた後、「音声ではなくメール」で聞き返そうと思い、「仕事」に戻った。
池田聡の状態が安定したことを受け、池田商事では午前11時から、臨時の役員会が開催された。
総務部長吉田満は、まず報告事項として、
・会長池田聡の脳梗塞による入院の事実。
・担当医師の判断で、リハビリに数か月かかること。
・左半身の麻痺、言葉のモツレは、回復できるかどうか、その程度が現時点では不明であること。
・退院後も、激務は困難であること。
・特に酒類と塩分、コレステロールの高い食事は厳禁。(つまり接待会食は困難であること)
を述べた。
役員A(既に根回し済み)が、会長夫人池田光子の会長臨時代理を提案し、全員一致。
池田光子が、役員のトップに立ったのである。
ただ、あくまでも会長臨時代理であることから、役員Bから発言があった。
(池田光子は、止められなかった)
(役員会前に根回しをされていたらしい)
「池田聡会長からお聞きしましたけれど、聡会長のお姉さまが、里子に出されていて」
「何と、元大蔵省の大幹部の里中家に」
役員Cからも発言。
「その里中家に入ったお姉さまが、池田商事とも関係が深い、大きなご恩がある都銀の支店長の息子さんとご結婚、男の子が生まれていたとか」
「この3月に自主退職なされたそうですが・・・理由は詳しくは知りませんが」
「とにかく仕事のできる人間と、会長からお聞きしております」
役員Dが提案した。
「この緊急事態です」
「それから、池田商事の長い歴史を考えれば、創業家に縁がある人を会長とするべき」
「是非、池田に役員として、次期会長として、戻っていただくよう、招請決議をしようではありませんか」
役員Eは、会長臨時代理池田光子の顏を見た。
「是非、その対応を臨時代理に一任したいと思うのです」
役員(合計で11人)全員が、拍手を持って、決議に持ち込もうとする。
そんな動きに、池田光子は、腹が立った。
(池田聡は、姉律子の四十九日の法要か、それ以前から仕組んでいたのかもしれない)
(もしかすると、圭太君の人事:会長付秘書内示の時点かもしれない)
(役員や社員連中には、ごく最近らしい、吉田満たちの反応を見ると)
大きめの声で発言した。
「そうは言っても、私には、夫が万が一の場合の対応もありますので、期待されても困ります」
「それから田中圭太君には、彼の人生、考え方があります」
「現在の仕事でも、驚くほどの成果を上げているとか」
「池田の身勝手を押し付けるわけには、いきませんよ」
「それと、3月までの平社員を、いきなり役員にした場合に、社内の納得が得られるのですか?」
人事部長宮崎保が挙手して発言。
「田中圭太君のお世話になった社員は、多くおります」
「この私も、窮地を救ってもらいました」
国際部長島田覚も挙手して発言。
「国際部も同じです」
「ここ3年間の池田商事の増益は、田中圭太君の為替分析が的確だったからです」
総務部長吉田満も続いた。
「田中圭太君は、地味なようで、経理の天才です、決算書も完璧、彼なくして、池田の総務は困難なのです」
「私も、彼の復帰を心待ちにしております」
「ましてや、創業家に縁の深い、血も立派につながっておるのですから」
「誰が反対するでしょうか」
役員Aが、話をまとめた。
「是非、会長臨時代理に、田中圭太様ご招請のご尽力を願いたいのが、役員会の総意なのです」
池田光子は、「結局私任せ?役員会は無責任の極み」と、ますます機嫌を悪くしている。
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