第153話池田光子の思い 池田聡の軽口
池田商事は、その名の通り、池田家が創業家で株式の過半数を保有する。
具体的には、故池田華代が35%、池田聡が20%である。
(尚、池田光子も10%持つ)
保有株式から言えば、池田華代が筆頭株主になる。
しかし、池田華代は経営には関与したくないので(名誉会長待遇)、全て息子の聡(会長)に任せてしまっていた状態。
その池田華代が亡くなり、池田聡も脳梗塞で入院なのだから、池田商事の今後の経営(会長職)は、全く先が見えない。
役員は、特に派閥はない。
意見を言う役員はいるが、会長になろう、そんな野心を持つ役員は誰もいない。
(聡に文句があっても、創業家を倒すまでの気力と財力は持たない)
そうなると、現会長の聡が倒れた現時点で、舵取り役が不在ということになる。
(ただ、聡はボンボン経営者なので、新奇な方針は出さないし、そもそも考えていない)
(祖父からの経営方針:良品を仕入れ、適正価格で売る、しか考えていない)
総務部長吉田満を待つ間、池田光子は、社内の派閥を思った。
(聡に気に入られ、出世しようとする派閥が二つある)
一つは、総務部長吉田満と営業部長杉田正の「営業成績重視派」。
吉田満は、元々営業畑(そのため、営業のエースの鈴木亮を買っていた)で、営業部長杉田正と同じ大学。
二人とも、少々の不正に目をつぶっても、利益を追求するタイプ。
ただ、営業のエースの鈴木亮の不祥事で、両者とも面子を失った。
※鈴木亮の不祥事:人事異動での不遇に立腹、婦女暴行事件を起こして逮捕。
※尚、人事異動で厚遇⦅会長付秘書に抜擢⦆された圭太は、母の病状を会社に言わず人事異動を拒否して、自主退職。
もう一つは、人事部長宮崎保と、国際部長島田覚の「内部充実、健全経営派」。
人事部長宮崎保は、決算処理で、退職給与会計での入力ミスを、圭太(池田商事在職中の)に指摘され、窮地を救ってもらったと聞いた。
また、国際部長島田聡も、圭太の国際為替動向の分析を信頼して(アドバイスを受け)、国外からの仕入れ量や、国内商品の輸出量を調整していた。
そのため、圭太には、ひとかたならない感謝をしていると聞いたことがある。
(実際、結局圭太がいた3年間で、かなりの増益を確定させた)
(圭太の入社前は、赤字だった)
「華代さんの株式を圭太君が受け取れば、筆頭株主で会長にもなれる」
「でも、律子さんが、断ったから、自分が受け取る理由がないか・・・」
「圭太君は、池田の経営に興味がないのかな」
「監査法人の方が向いているのかな、性格的に」
「派手な、社交的な性格ではないことは事実」
「聡は、その意味では、会長向き」
池田光子は、様々に思い悩む。
「まず、役員で圭太君を迎え入れる・・・」
「社内外の動揺を呼ぶか・・・その理由は何?と」
「そうなると、華代さんと律子さんの秘密も、いずれ公表?」
「DNA検査を公表すれば、納得するかな」
「いやいや・・・申し訳ないような・・・」
「池田家の恥を世間に公表するの?」
「不倫の娘の子?」
「でも、圭太君は、仕事はできる」
「少なくとも、聡より、経営がわかっている」
「健全経営ができるよ、圭太君なら」
「養子にしたいくらい」
「嫌がるよね、圭太君・・・」
「律子さんが亡くなったばかりだもの」
「いや、それ以前に、池田に興味が無いから、財産分与も拒否した」
池田光子が、思い悩んでいると、吉田満が病室(個室)に入って来た。
ベッドで眠る池田聡を不安そうに見て、光子に頭を下げた。
「お母さまの突然の葬儀で、疲れたのでしょう」
「経営的には利益を充分に確保しています」
「国際為替の読みが、的確だったようで」
光子は頷く。(圭太の分析の結果と思う)
「これから、役員会とかどうしましょう」
総務部長吉田満は、また頭を下げた。
「創業家として、奥様のご臨席を賜りたく」
「会長が復帰なされるまで、会長代理の選任を検討しています、当面ですが」
光子が戸惑うと、総務部長吉田満は続けた。
「田中圭太君は・・・実は、ご血縁とか」
「・・・四十九日の法要前に、会長からお聞きしました」
「人事部長も、聞いています」
池田光子は、眠る夫聡の顏を見た。
(言う前に、何故妻の私に相談しないの?)
(その軽い口に腹が立って仕方がない)
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