第152話池田聡が倒れ、光子は考える。

池田商事会長池田聡は、母池田華代の葬儀(社葬)終えた直後から、体調を崩した。

赤ら顔がおさまらず(酒を飲んでいない時も)左脚、左手の動きが、もたつく。

言葉も、もつれてしまう状態なので、妻光子は、病院受診を勧めた。

しかし、池田聡は、大の病院嫌い(母華代の見舞いも嫌がったほど)なので、体調不安の中、池田商事への出社を数日、続けた。


そして、金曜日の朝、事件が起きた。

「おーい・・・」

光子が食卓に着こうとした時、洗面所から、夫聡の声がした。

「いやにボケた・・・ふやけた声」(光子は、そう感じた)

不安を感じたメイドが洗面所に入ると、聡は床に座り込み立ち上がれない状態。


「奥様!」メイドの声で、光子は洗面所に走った。


「うわ!これ!」

光子は、聡の顏を見た時点で「異常」を察した。

顏の左半分が、ズレたような感じ。

目も虚ろで、視線が定まらない。

手、特に左手が全く動いていない。(指が固まってしまっている)


メイドの声が緊張した。

「救急車を呼びます!」

「触らないほうが・・・」


救急車の到着は、遅れた。(約1時間後、交通渋滞、路上駐車が多かったようだ)

それでも、聡は救急車で病院にたどり着き、MRI検査他様々な検査を受けた。

検査結果は、「脳梗塞」。(45分以内なら、助かる方法もあったとか)

そのまま、入院となった。


池田商事総務部長への連絡は、光子から。

総務部長吉田満は驚いた声。

「承知しました」

「まずは、一度病院に伺います」


光子は、病院で総務部長吉田満を待つ間、いろいろと考えた。

まず、聡の今後が気になる。

脳梗塞となれば、この後、どうなるか不明。(急死も想定しなければならない)

命の危険が無くなったとしても、どこまで回復するのか、全くわからない。

回復するにしても、相当のリハビリ期間が必要。

とても、池田商事の会長職など、務まるものではない。


現在の役員の中から、新会長は選びたくないのが本音。

役員と言っても、ロクな意見を持たず、ただ聡の意見を是とするだけの、御用役員ばかり。

それと、創業以来、創業家から会長を出して来た、その経緯もある。

難しいのは、池田聡と光子には、子がないこと。

池田聡が、あちこちで浮気を重ねても、婚外子は生まれなかった。


光子は、姑の華代に、恥を忍んで相談をかけたことを思い出す。

「聡さんを満足させられなくて、子供が出来なくて、会社にも不安と迷惑を」

「それと、あちこちに・・・あの・・・女性が・・でも子供までは、できていないらしくて」


華代は、光子に泣いて謝った。

「ごめんなさい、光子さん、聡が馬鹿で・・・」

光子も泣いた。(姑の華代も、夫の浮気に苦しんだ人だったから)


華代は、律子と圭太の名前を出した。

「律子の子、圭太なら、つながるかな」

光子は、華代に、DNA検査を提案した。

「もし、このままで子が出来なくて・・・」

華代は、素直に了承した。(やはり池田商事の今後も考えたと思う)

律子には、しっかりとは言わなかった。

(圭太を池田商事に取り上げるような、目論見と思われたくなかった)

(律子が池田華代からの財産分与を断っていたことも聞いていた)


DNA検査材料は、光子の実家(割烹)で、華代、律子、光子の会食時の唾液から。

その結果は、光子が夫聡に内緒で持っている。

「圭太君には、酷な話かな」

「池田に戻りたくないだろうし」

「今の仕事のほうが似合う」


光子は、判断が難しい。

圭太に池田商事を継いでもらいたいと思う。

しかし、その後の苦労も可哀想と思えてならない。

何より、律子を裏切るような、その思いが強い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る