第151話圭太の当惑と判断 芳香は頑固
朝早くから、芳香に迫られ、圭太は困惑している。
「朝飯を作りに通って来て、弁当まで」
「こいつは正気なのか?」
「一日ぐらいなら酔狂も・・・」
「いや、俺のような何の取り柄もない男に何故こうなる?」
「もっと、他の男にするべきだ」
「あるいは、俺は、そのための練習台か?」
「そして、俺が勘違いして芳香に迫れば、大笑いでゴミのように捨てるのか?」
圭太は、そこまで考えて、冷静に戻った。
「芳香さん、美味しかった、ありがとう」
「そろそろ出勤時間」
芳香は、ふぅっとため息。(その気持ちの昂りを静めるように)
「わかりました」と席を立つ。
食器洗いは、圭太が素早く動いた。
芳香は、その洗い方の見事さに驚いた。(実は、昨日から)
「私より・・・きれいに速く・・・困ります」
「朝の嫁としては」(やや、踏み込んだ言い方をしたけれど、圭太からは反応がない)
圭太からは、洗い方の技術についてのみ返事。
「学生時代に喫茶店とクラブでバイト」
「特に喫茶は忙しい店だったから、鍛えられた」
マンションを出て、並んで駅まで歩く。
芳香は、圭太にまた迫る。
「朝の嫁だけでなくて、夜も来たいなあと」
圭太は、首を横に振る。(嫁には反応しない)
「ありがたいけれど、芳香さんにも家庭がある」
「親御さんと食べたほうがいいかな、それが自然」
芳香は、頑固に引かない。
「毎朝来ますよ、入れてくれなかったら、玄関の前で泣きます」
「今夜も、お邪魔したいです」
圭太が、答えられないでいると、芳香はまた圭太に迫る。
「明日から、伊豆長岡ですよね」
「押し掛けますよ、本気です」
圭太は、ようやく言葉を返す。
「予約してない・・・あ・・・妹で?」
芳香は、笑う。(頑固に嫁を押し通す)
「日本古代では、妹背の関係」
「圭太さんは背の君」
「妹は嫁にもなったから、私もそうなります」
これには、圭太も笑う。
「万葉集?ここで」
月島からメトロに乗った時点で、乗客も多く、会話は止まった。
芳香は、圭太への密着を拒まない。
混雑する車内で、圭太の正面に立ち、豊かな胸をボンボンぶつけて来る。
メトロを降りて、一緒に歩くと、また圭太に迫る。
「最近、また胸が元気です」
「圭太さんに会ってから、また成長しました」
「だから胸攻撃してあげました、いかがでした?」
圭太は、上手に答えられない。
「よくわからないけれど、芳香さんが可愛らしいのは、わかる」
(圭太自身、言っていて情けないほどの返事)
芳香は、この下手な返事がうれしかった。
(洒落た返事より、うれしい)(耳まで顏が赤い)
「わ・・・可愛いって・・・」
「何度でも聞きたいです」
銀座監査法人のビルが見えた時点で、圭太は芳香に言い渡した。
「明日から伊豆長岡に行く」
「もし、芳香さんが来るなら、まずご両親の了解を」
「その上で、極力、空き部屋を探します」
「今、言えることは、そこまでです」
圭太としては、そもそも「ご両親の了解」の時点で、「芳香の伊豆長岡」はないと思った。
芳香の両親として、未婚の大切な愛娘が、「俺のような陳腐で、両親を亡くした孤児、ロクな家柄でもない男」と温泉旅行など、あり得ない(唾棄すべき)と判断すると考えた。
ただ、芳香の表情に、何の変化も見られないことが不思議だった。
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