第150話紀子の落胆 母公代の現実的な言葉

紀子は、フラフラになって、家に戻った。

圭太に送ったメッセージに、まだ既読がつかないこと、それを気にしてはいるわけではない。

たいしたことは書いていない。

(「おやすみなさい」だけにした)

(前回も完全スルーされたから、余計な気持ちを書いてイライラしたくなかった)


それよりも、家を出て駅に行くまでのクールな顏が辛かった。

「愛して欲しい、抱いて欲しい」

その意味のことをチラつかせたけれど、全く反応が無かった。

「私は、単なる同窓生なの?結局」

「圭太は、私には、いろいろ、素直に話してくれるでしょ?」

「芳香には、引いていると、素直に言ってくれたよね」

「でも、私を最後に何で拒絶するの?」


そんな思いでフラフラの紀子を、母公代が迎えた。

「紀子、顏が暗いよ」

「お父様は、圭太君でOK、決めたとか」

「私も同じ、圭太君なら婿にしたい」

「紀子は、いい男を選んだと思うよ」


紀子は、ソファに力なくペタンと座った。

「でもさ・・・・圭太・・・」

「応じてはくれる」

「でも、私に気がないかも」

「圭太の心の壁が厚い、高い」

「あくまでも、友達かも」

「手を握るのは、いつも私から、圭太からではないの」


公代は、紀子の未熟を感じた。

「圭太君は、心の底は、やさしい子」

「それはわかるよね」


紀子

「うん、深くて、後で気づくこともある」

「すぐにわからないから、腹が立つ」


公代は、紀子の「幼さ」に呆れる思い。

「紀子、送ってもらっただけでも、誠意を感じないと」

「圭太君も疲れているはずなのに」

「私は、圭太君の大人の反応が好き、安心する」

「外でベタベタしてくれないからって、拗ねないでよ、子供じゃないんだから」


下を向いていた紀子が顏を上げた。

「そうかな・・・・そういうものかな」

「焦り過ぎているの?私」


公代は、ソファに、紀子の真正面に座った。

「圭太君の今までとか、気持ちを考えてあげて」


紀子は、公代の言いたいことがわからない。

「わかりやすく言ってよ」


公代の目が潤んだ。

「圭太君は、大好きなお父さんを事故で亡くして」

「葬式でも、健気に耐えて泣かないで」

「その後は、律子さんと、仲良く暮らして」

「お父さんが亡くなって、律子さんしか、家にいない」

「だから、お互いに大切に思って暮らした」

「圭太君は、学費を全部アルバイトで、土日もなく働いて」

「それも、お母様に負担をかけないようにと」


公代の涙が激しくなった。

「でも・・・律子さんは・・・圭太君がそんなに頑張ったのに」

「病気になって、看病も圭太君一人で、誰も手伝う人はいないから」

「お葬式も一人で・・・圭太君は仕事を辞めてまでだよ」

「圭太君も辛い判断、感染症もあって人を呼べない、会社も決算前で迷惑かけたくなくて言わなかったと思うの」

「可哀想だよ、律子さんも・・・圭太君も」

「そんな寂しいお葬式する人でも家でもないのに・・・」


公代は、紀子を見た。

「圭太君は、まだ、辛さは消えていない」

「心も身体も疲れていると思うよ、一人きりの家で」

「紀子は、それをどこまでわかって、癒せるの?」

「紀子は、お金の苦労も、家族の苦労も何も無いでしょ?」

「圭太君のそういう苦しみがわかっている?」

「自分が好きだけでは、半人前だよ」


紀子は、打ちひしがれた。

「だって・・・圭太が欲しいもの」

「好きで好きで、眠れないよ」

「圭太を好きな女も多いし、このままだと・・・取られそう」

「田園調布と月島、遠過ぎ」


公代は、そんなことしか言えない紀子が情けない。

「とにかく圭太君について、しっかり考えなさい」

「何が圭太君に必要なのかを現実的に考えないと、そこからでは?」

「紀子が好きなだけでは、圭太君の役に立てないでしょ?」

「少なくとも、感謝はされない」


紀子は、腕を組み、考え込んでいる。

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