第149話圭太は紀子への対応を「反省」する  芳香は圭太に強く迫る

圭太は、改札で紀子と別れた。

紀子は「月島に行く」と言い張ったけれど、圭太は「明日も会える」と説得、東急線に乗り込んだ。


その圭太自身は、紀子の家まで行ってしまったことは、失敗(失態)と考えている。

そもそも銀座で別れるべきだったと思うし、それが出来なかったのは自分の決断の鈍さ、節操のなさと考えた。

「紀子のご両親に、こんな無様な顔を見せ、飯まで心配されてしまった」  

「じいさんの部下とか、親父の後輩は、どうでもいい」

「単に関係を思い出して話題にしただけ、無理筋の社交辞令に過ぎない」

「下町住まいの俺への憐れみでしかない・・・情けない限りだ」


圭太自身、紀子と「仕事以外では付き合わない」と決めたのに、それを守れなかった「情けなさ」は、充分に反省するべきと思った。

どれほど銀座監査法人の同僚に笑われようと、紀子が怒ろうと、一緒の行動は固辞するべきだったと思う。


「そうでなければ、決めた意味がない」

「明日からは、何があっても、直帰する」

「紀子も、長い目で見れば、そのほうがいい」

「俺より、もっと明るくて立派な家柄の男と結ばれるべき家柄の女性に、申し訳ないことをしてしまった」


車中で、スマホに紀子から、メッセージの着信があった。

圭太は読まなかった。

「勤務時間ではないから、仕事の話ではない」

「個人的な付き合いをしないと決めた以上、個人的なメッセージを読む必要はない」

「今日は、紀子を警護のため、送って行っただけにする」

「明日、キッパリと言う、それが紀子の将来のためになる」


圭太は、マンションに戻っても、スマホを見ない。(紀子からのメッセージはスルーした)    

そのまま、シャワーと洗濯などの家事。

疲れを感じたので、夜10時には寝てしまった。



圭太が目覚めたのは、朝6時半。

珈琲を淹れ、飲んでいると、いつもより早く平野芳香がチャイムを鳴らして来た。

玄関を開けると、また、笑顔で抱きついて来る。

「おはようございます、圭太さん」

豊かな胸をグッと押し当てて来るので、圭太は困った。

「芳香さん、やり過ぎでは?」


芳香は、笑顔のまま。

「このままレスリングしても勝てますよ」

「圭太さん、覚悟してください」


これには、圭太も笑ってしまった。

「負けを認めます」

「とても体力では」


芳香は、笑顔でホールドを続ける。

「それ・・・私が太っているとでも?」

圭太は、また押された。

「健康的な意味での表現です」

芳香は、笑顔のまま、圭太へのホールド攻勢を続ける。

「刺激が強い?」


圭太は、返事に困った。(上手な表現ができなかった)

「いや、ふくよかで、いい感じ」


芳香は、もう一度圭太を強くホールドしてから朝食のセット。

「焼き魚、味噌汁、香の物、納豆、玉子、ご飯」の典型的な下町朝ご飯。


圭太は、食べる前に、封筒を渡す。(3万円入れた)

「足りるかな、足りなかったら、言って」


芳香は、目を丸くする。

「圭太さん、物価知らないの?多過ぎます」

圭太

「だって、朝来てくれて、お昼まで」


芳香は、また笑う。

「だって、それは私の趣味です」

「圭太さんは、趣味のエジキですよ、捕獲対象ですから・・・もう捕獲して味見対象ですよ」


圭太は、これには負けた。

「美味しいの?俺」


芳香の目が潤んだ。


「はい、美味しいです」

「もう・・・我慢できません」

「もっと、しっかり圭太さんを食べたい、私の身体が要求しています」


圭太は、芳香に押されるがまま、「言葉の意味」を懸命に考えている。

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