第145話圭太は紀子の家に 父の後輩、河合公代(紀子の母)に逢う
圭太は、紀子に対して、特別な感情はない。
単に、学生時代の話し相手、今は銀座監査法人の同僚。
良く言って、「友人」。
恋も愛も、そんなことは考えていなかったから、「好き」とか「家に来い」と言われても、困惑しかない。
「俺のどこがいいのか?」よりも「俺よりも、似合いの男がいるはず」の思いの方が強い。
圭太は、結局冷ややかな顏に戻った。
「一時の感情と思うよ」
「ずっと離れていて、偶然に再会した」
「その懐かしさで、感情が昂った」
「もう少し、冷静になったほうがいい」
「再会して、まだ日も浅い」
紀子は、圭太が、まどろっこしい。
「好きなのは、昔から、学生の時から」
「一時的も懐かしさも関係ない」
「女に恥をかかせないでよ」(語調が強くなった)
圭太は返事に困った。
かつてバイトした店、あまり揉めたくなかった。
「少し抑えて」
「人目もある」
紀子の目が潤んだ。
「圭太の家か、私の家、どっちかにして」
圭太は、すぐに決めた。
「送って行く」(田園調布まで、少し遠いと思ったけれど、泣かれるよりはいい)
圭太と紀子は、店を出て、タクシーに乗った。
紀子は、そのまま圭太に身体を寄せた。
「ごめん、負担かけた?」(圭太の痩せた身体に申し訳ない気がする)
圭太は静かな声。
「紀子には、あまり怒って欲しくないかな」(余計なことは言いたくない、最低限)
紀子は、圭太の口調に反省した。
「ごめん、恥かかせたかな」(圭太が学生時代にバイトした店を思い出した)
圭太は少し間をあけた。
「大人だからいいよ」
その後は、二人黙ったまま、田園調布までタクシーは進むだけ。
紀子が圭太の手を握っただけ。(圭太は拒まなかった)
(途中、紀子はスマホで家人に連絡を取っていた)
渋滞もあり、紀子の家には、午後7時少し前に着いた。
落ち着いた、瀟洒な洋風、二階建てのお屋敷。
紀子に続いて圭太がタクシーから降りた。
お屋敷から、紀子によく似た妙齢の女性が、玄関を開け、出て来た。
丁寧な挨拶だった。
「田中圭太さんですね」
「紀子の母、公代と申します」
「どうぞ、お入りに」
圭太は、圭太らしく深くお辞儀。
「田中圭太と申します」
「お嬢様には、銀座監査法人にて、大変お世話になっております」
「本日は、夜分にお邪魔して、申し訳ありません」
その圭太の手を、河合公代がスッと握った。
「本当に・・・お父さんに似ている・・・」
「私、田中隆さんの、後輩なの、本当にお世話になって」
「実は、赤ちゃんの圭太君を抱っこしたこともあります」
圭太は、身体が震えるほどに驚いた。
「父を?」
「子供の私を?」
河合公代は、涙ぐんだ。
「深い話は、家の中で」
「それから、夜分も何も・・・」
「そもそも、紀子の我がままでしょ?」
紀子は、真っ赤になっている。
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