第144話河合紀子は圭太に迫る(2)

私、河合紀子は、声が震えた。

「圭太、マジに聞いて」


圭太は、座り直し、背筋を真っ直ぐにした。(こういう所が、たまらなく好き)


「圭太は、本音で芳香ちゃんに、引いちゃうでしょ?」

「ずっと一緒にいられる?」


圭太は、頷いた。

「結論的には、そうなる」

「ついて行けないかな、若過ぎて、ハツラツとし過ぎて、疲れる時もある」

「彼女を断るとか、違和感は持つべきではない、そう思うだけで」

「どこかに、親父の死の原因となった人・・・それは残るよ、申し訳ないけれど」

「俺にも、未熟な部分がある」(すごく苦しそうな顏だ)


私は反射的に、圭太の手を握った。(圭太は拒まない)

「私では?」(もう、目をつぶった)(圭太の返事が怖い)


ところが、するっと圭太の手が抜けた。

「紀子さん」(名前の呼び方を変えて来た・・・何事?)


目を開けた。(圭太の心が読めない)


圭太は、冷ややかな顏に戻っている。

「よく考えて欲しい」(まだ、圭太の心・・・不明)


「だから、何?」(聞き返して、怖い、足が震える)


「紀子さんのご実家は田園調布、俺は下町の月島」


「当たり前、そのままでしょ?」


「学生同士なら、いや学生同士でも気にする親もいる、特にお屋敷町では」


私は、ようやく圭太の心がわかった。

「圭太、それを気にしたの?」

「住んでいる場所格差とか?」


圭太は、冷静だ。

「今夜は、それもあって、付き合いをためらった」

「今後も、どうかな、俺より紀子が困るのでは?」


私は、思いっきり圭太の足を踏んだ。(痛そうにするけれど、許さない)

「圭太、張り倒すよ、本当に」

「私が圭太を好きなの」

「田園調布でも、月島でも、関係ないよ」(声が大きくなった)


私に押されて(予想外だったようだ)目を丸くする圭太に、たたみかけた。

「それとも、他に好きな人がいるの?」

「いい?圭太を好きな人でなくて、圭太が好きな人って意味だよ!」

「そう言わないと、圭太はわからないでしょ?」(ここまで言って、勝利感がある)


圭太は、じっと私を見て来る。

(それも、怖いなあ・・・)

(勢いまかせで、不安だ)


ようやく口を開いた。

「ありがとう、紀子」(紀子さんから、紀子になっている)

「ごめん・・・」(え?フラれる?コクって・・・フラれるの?私)

「紀子は、何でも話せる・・・大切な人」(おい・・・泣ける)

「今まで・・・」(うん、本音だね、その顔)


「そういう男女のこと、考えて生きていない」

「高校生の時は、ともかく」

「大学は、バイトと受験で、睡眠時間は長くて5時間」

「デートなんて経験ない」

「だから、女性には下手」

「ロクなエスコートもできない」


私は、グダグダと言い訳をする圭太が面白い。

「そういうの、よく知っている、さんざん被害経験済み」

「それとさ・・・圭太・・・一度、家に来て」

「いろいろ、言いたいことが、見てもらいたいものが、家でもあるの」


圭太は、目を丸くしている。

(家に行けばわかる、でも教えない)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る