第146話河合紀子の父淳司と圭太の祖父里中寛治の関係
紀子の実家、田園調布のお屋敷に入った圭太は、まず、リビングに通された。
紀子の父も出て来た。(謹厳な表情、圭太は威儀を正す)
圭太は、再び、自己紹介。
「紀子さんの銀座監査法人の同僚の田中圭太と申します、夜分遅くに、しかも突然に申し訳ありません」
「紀子様を送って参りました」(やはり下町の人間、住居地域格差を意識して、頭を下げる)
紀子の父も、自己紹介。(表情が変化、柔和に圭太を見つめている)
「河合淳司、紀子の父です」
「財務省に勤務しております」
少し間があった。
「旧大蔵省では、里中寛治さんの部下、薫陶を受けました」
圭太は、それでも、慎重。
「里中寛治は、祖父です」
「生まれる前に亡くなっています」
「申し訳ありません、直接は知らないので」
河合淳司は、柔和な顏。
「どこか、似ているような」
「でも、うれしいと思います・・・寛治さんの話ができて」
「里中寛治さんは、かなりの政治家を牛耳った、気骨のある本物の官僚」
「私の憧れの人でした」
「時の首相、それも何人もホットラインでつながっていて」
「予算編成でも、里中寛治さんが承諾しなければ進まない」
「政治家には厳しく、部下にも厳しい、でも、太い筋が一本通っていて、政治家の益ではなくて、まず国益」
圭太は、知らない話なので、ただ聴くばかり。
時折、「ありがとうございます」を言う程度。
河合紀子の母、公代が話題を変えた。
「私は、圭太君のお父様、隆さんの法律事務所の後輩」
「本当にやさしくて、お母様の律子さんと、仲が良くて」
「私も律子さんとは仲良し、やさしくて可愛くて」
「同じ時期に子供を授かって、一緒に遊んだこともあるのよ」
「その時に圭太君を抱っこして、律子さんが紀子を抱っこしたの」
そこまで言って、「あ・・・」と頭を下げた。
「律子さん・・・本当に残念でした」
「紀子に聞きました」
「圭太君が一人でお世話して看取って・・・」
「申し訳なかった・・・あんなに親しくしてもらったのに」
(河合公代は涙ぐんでいる)
親二人の話が一段落したので、圭太は頭を下げた。
「そろそろ、お暇します」
「今日は、ご連絡もせず、伺いまして、申し訳ありませんでした」
(圭太自身、疲れて来ていた)
しかし、簡単に話は進まない。
河合淳司。
「食事をして行って欲しい」
「私もおじいさんには、よく食べさせてもらった」
河合公代
「主人も私も、圭太君の話を紀子から聞いて、お逢いしたくて、ようやくなの」
困惑する圭太に紀子が、声をかけた。
「大丈夫、圭太」
「私たちを信じて」
圭太は拒めず、食堂に案内された。
公代と紀子が動き回り、和食系のおかずを並べて行く。
河合淳司は、アルバムを書棚から持ち出し、古い写真を圭太に見せる。
「おじいさんと私が映った写真です」
「主計局時代で、真ん中におられるのが、寛治さん」
「この端に私」
圭太は頷く。
「そう言えば、この写真、母が持っていました」
「この間、遺品を少し整理した時に見たような」
河合淳司は、本当にうれしそうな顔。
「人の縁だろうね、一千万も住む東京だけど、何故か糸のようにつながる」
「私は、かの里中さんのお孫さんというだけで、うれしくて仕方ない」
「何とか、恩返ししたくてね」
圭太は、河合淳司の声が、本音と察した。
とにかく昔風、昭和風、義理や人情を重んじる人。
自分の懐に入れば、とにかく大事にする人。
ただ、「両親を亡くした俺への、これも憐れみか?」そんな懸念も強く感じている。
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