第141話池田聡の到着  圭太は芳香と仲良く昼食

池田商事会長池田聡が築地の病院に到着したのは、午後2時過ぎ。

主治医からの説明を受け、母華代の遺体に向き合う。

「長い間、ありがとうございました」の礼は、述べた。

しかし、その後の言葉が続かない。(懸命に言うことを考えた)

数分経って、ようやく言葉が出た。

「社葬にいたしますので、実務関係者が到着するまで」

「申し訳ありませんが、しばらく病院に、このままに」

(この時点で、池田商事からは、誰も来ていない)

主治医も看護師も、仕方ないので一礼をして、病室(個室)を出た。


妻、池田光子は部屋の隅に座り、一言もない。(夫聡とは、顏を合わせない)

また、池田聡も、我が身に言えない事情(九州浮気ゴルフ旅行)(連絡もつかず、臨終にも遅れた)もあるので、一言も出せない。(何か言えば、文句を言われると、恐れている)


尚、光子が、不安に思う「律子が赤ん坊の圭太君を抱く写真」は、華代の遺体(入院服)にしっかりしまったので、気づかれなかった。


午後2時半になって、ようやく総務部長吉田満が、病室に入って来た。

「この度は・・・」と深く聡に頭を下げ、故人となった華代に手を合わせた。

(光子は、その吉田満に腹が立った。遅れも気に入らないし、まず池田華代さんのご遺体に手を合わせるべきだろうと)


池田聡は、ようやく大き目の声。(部下には強いらしい)

「吉田、社葬の手配を」


総務部長吉田満は、またお辞儀。

「はい、ご指示、手配通りに」

「会場、参列予定者への連絡、葬儀での手順」

「全て、順調に、鋭意進めております」

「尚、菩提寺様には、会長からご連絡を」


池田聡の顏が変わった。(予想していない、あるいは、忘れていたらしい)

「あ・・・わかった」

そこで、ようやく、妻光子の顏を見る。(つまり、電話番号も知らないようだ)


光子は、「この流れ」は、想定内。

(表情も変えず、無言で)、「菩提寺の電話番号メモ」を手渡した。




圭太は、銀座監査法人で、通常の監査業務を続けた。

お昼は、平野芳香のお弁当(昨日より多めになっていた)を、仲良く食べる。


芳香は、うれしくて仕方がない。(弾けるような、笑顔)

「こういう味付けが好きなんですね」

「と言っても、昔風で塩分が心配・・・」


圭太は、ご飯に混ぜられたアミの佃煮がうれしい。

「母さんが作ってくれた弁当と同じだから」

「この佃煮で育ったようなもの」


芳香は、圭太の食べる顏が好き、いろんなことを言う。

「そもそも、圭太さんのお母様の味付けと、私の母の味付けも、ほぼ同じです」

「下町の心意気も似ているかな」

「もっと食べて、あと10キロは肉を付けましょう」

「食べて元気になること、それが、律子お母さまの願い、供養です」


圭太は、食べながら、「母律子と祖母華代」の顏(笑顔)が浮かんだ。

「食べろって言われているような気がする」

「芳香ちゃんを通じて」


芳香は、可愛い顔で笑った。

「私には、勝てませんよ、圭太さん」

「お母さま直伝ですから」


今日のお昼には、デザートがついた。

芳香

「お饅頭です、築地の」


圭太は、珍しく声を出して笑った。

「あはは!・・・塩瀬の?まさか・・・」

「何年ぶりかな、5年か・・・もっと」

「美味しいや、さすがに超老舗」


芳香は、饅頭を勢いよく食べる。

「今度、自分でも作りたいなあと」

「お菓子作りも好きなんです」


圭太は、圭太らしく「ウンチク」を言う。

「奈良に、お饅頭の神社がある、小さな神社だけれど、菓子業界の神様」

「お饅頭を伝えた中国人を祀った」


芳香は、身を乗り出した。

「一緒に行きます、連れて行ってください!」


圭太は、また押された。(笑顔で頷いている)

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