第140話圭太のやさしさ 華代の涙と笑顔の往生

私、池田光子は、圭太君の深いやさしさに、涙が出るほど感じ入った。

まず、気がついたのは、朝6時だった。

スマホを見たら、圭太君からのメッセージ(動画ファイル付き)だった。

コメントは、「圭太です、おばあ様に見せて欲しく思います」。

すごくワクワクした。(私も動画を見たかったから)(おばあ様の文字も、すごくうれしかった)

姑華代さんの机から、「律子さんが赤ん坊の圭太君を抱く写真」を引っ張り出して、午前8時には、築地の病院に着いた。


個室に入ると、華代さんは弱い息。

確かに、本当に危ない状況と思う。

医師と看護師に、強く迫った。

「お孫さんから、動画メールです、見せてもいいでしょうか」

医師も看護師も、嫌な顔はしなかった。

「わかりました、目を開けてくれたら、奇跡です」


私は、まず華代さんに声をかけた。(声を大きめに)

「華代さん、圭太君がどうしてもって」

「華代おばあ様にって・・・このビデオを」

「律子さんと赤ちゃんの圭太君の写真も、持って来ましたよ」


本当に驚いた。

華代さん・・・少し手が動いて・・・目を開けた。

「・・・律ちゃん?圭太ちゃん?」(言葉は弱い、でも、しっかり単語になっている)


大きなスクリーンを使わせてもらい、圭太君からの動画を再生した。

まず圭太君は、律子さんの大きな、若い頃の写真(笑顔)を胸に抱いている。

圭太君が、笑顔で大きな声で話し始めた。

「おばあちゃん、圭太です」

「今まで、お見舞いできなくて、ごめんね」

「今日は母さんと、お見舞いに来たよ」

「ほら・・・泣かないでよ」

「笑って、母さんと同じ顔だね、おばあちゃん」

「だから、大好きだよ」


華代さんは、泣いていた。

その手に、「律子さんと赤ちゃんの圭太君の写真」を持たせた。

華代さんは、写真を胸に抱きしめた。

そして、シクシクと泣いた。


しばらく泣いて、笑顔になって、私の顏を見た。

「光子さん、ありがとう、これで満足しました」(言葉ではない、笑顔でそう感じた)

やはり疲れたのか、すぐに目を閉じた。

私は、背中を支えながら、寝かしつけた。


医師から言葉があった。(看護師は泣いていた)

「感動しました」

「奇跡です」


しかし、すぐに血圧が低下、脈も弱まり、昏睡状態。

そして、華代さんは、その苦しかった人生を閉じた。


胸に抱いた「律子さんと赤ちゃんの圭太君の写真」は、そのままにした。

目を閉じた華代さんは、幸せそうな顔だ。

おそらく圭太君の笑顔と声、律子さんの笑顔が、うれしかったと思う。

特に、圭太君の「おばあ様、大好き」と「母さんと同じ顏」は、最後に心の重荷を粉々にしたと確信する。

だからこそ、あんなに安らかな笑顔で、永遠の眠りについたと思う。


最後の最後に来て、孫の思いやりに幸せを感じて命を終える。

これも、人間の幸せかな、そんなことも思う。

やはり、圭太君は、深い。

表面は、クールだ、確かに。

電話では、こんな動画を作ったなんて、一言もないのが、またいい感じ。

余計なことは言わず、でも、しっかりと思いやる。


バカ亭主を思った。

ゴルフ場にスマホを置き忘れ?それが責任ある会長のすることか?

しかも、実母の臨終にも立ち会えない。(飛行機遅れなんて、理由として認めない)


池田商事の混乱も耳に入っている。(本当に情けない、恥ずかしい限りだ)

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