第138話池田華代の死
圭太は、平野芳香との朝食を終え、一緒にマンションを出た。
駅までの道で、銀行の前で、平野芳香の母、和美に会う。(平野和美は銀行員、店の前の掃き掃除をしていた)
圭太は、深く頭を下げる。
「毎朝、申し訳ありません、ありがとうございます」
平野和美は、娘芳香を見ながら、うれしそうに笑う。
「いえいえ、私がお世話したいくらい、この娘でお役に立てますでしょうか」
「味付けも、下町そのもので」
今度は圭太が笑った。
「うれしいです、目を閉じると、母と食べているような、同じ味」
平野和美の目に涙が浮かんだ。
「こちらこそ、本当にうれしい」
「ねえ・・・食べたい物、言ってね」
「もっと、太って、あと10キロは体重を増やしてね」
圭太は、「あはは」とさわやかに笑い、平野和美と握手、芳香と月島の駅に歩く。
メトロに乗り込むと、芳香。
「本当に、お味噌汁から圭太さんの家で作りたいです」
圭太は、やんわりと、断る。
「朝寝坊ができなくなる」
「芳香さんも、毎日は大変、無理しないでいいよ」
芳香は、圭太に身体をぶつけ、腕を組む。
「そんなこと言ったら、怒ります」
「私の楽しみを奪わないでください」
圭太が返事が出来ないでいると、芳香は、また押した。
「公職選挙法のレクチャの準備もできました」
「いつでも呼んでください、午後でも、夜でも、圭太さんの家でもいいです」
その後は、メトロも混んで来て、話が出来ない状態。
圭太も無言、芳香も無言。(腕は組んだまま)
(銀座監査法人のビルの前でようやく腕を離した)
芳香は、花のような笑顔。
「お弁当も準備済みです、お楽しみに」
圭太も、その笑顔には負けた。
「わかりました、助かります」
銀座監査法人のオフィス内に入ると、佐藤由紀とすれ違う。
佐藤由紀が聞いて来た。
「芳香ちゃんと、またお昼ですか?」
圭太
「うん、美味しい、お弁当そのものが好き」
「どうも、お洒落な外食は似合わないようだ」
佐藤由紀(悔しそうな顔)
「私も、料理習おうかな」
圭太は、軽く流す。
「ご随意に、仕事に入ります」(そのまま、第一監査部に入って行く)
第一監査部では、河合紀子が笑っている。
「まるで兄と妹?」
圭太も笑う。
「食べ残しは、怒られる、必死だよ」
河合紀子は、苦笑。
「私だと、反発できるのにね」
圭太は頷く。
「そうだね、喧嘩もできるけど、あの子にはできない」
「泣かせたくない」
河合紀子は、圭太の脇に肘打ち。
「圭太に何度泣いたか、わからないよ」
圭太は、意に介さない。(紀子との経理問答と考えている)
「それは紀子の勉強不足、解釈が甘いから」
そんな雑談の後は、通常の厳しい監査業務が続く。(二人とも、私事は口にしない)
午前10時を過ぎだった。
圭太のスマホに、「池田光子」からメッセージが入った。
「池田華代様が、本日午前9時30分に、ご逝去されました」
「葬儀等の連絡は、専務の高橋様にも届けました」
「圭太君の判断にお任せします」
圭太が「ご連絡ありがとうございます」の返信を送っていると、専務高橋美津子に専務室に呼び出しを受けた。
圭太は、何故、呼び出されるのか、わからない。
少し不安を感じながら、専務室に向かった。
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