第137話池田華代は危篤状態 圭太の厳しい判断 あてにならない池田聡と池田商事
私、池田光子は、築地の病院にいる。
ガラス越しに見る、姑華代の状態は、ますます悪化、予断を許さなくなっている。
ほんのたまに出て来る言葉は「律子」と「圭太ちゃん」ばかり。
やはり、手放した娘が恋しい、華代さんは、その思いに縛られ続けて生きて来た。
親の借金のために、政略結婚ならぬ商略結婚。
愛した男との、産んだ娘を否定され、捨てろとまで言われ、従ってしまった。
その上、好きでもない商略結婚の男(宮田隆)の子(池田聡:私の夫)を無理やり産まされ、育てさせられた。
その後の池田隆(旧姓宮田)は、浮気のし放題、女に支払い放題。(しかも会社の金で)
それもじっと耐え、時々内緒で、律子さんに逢うだけが楽しみ。
華代さんの引き出しの奥に(おそらく暴力を振るう夫に見せたくなかった)、律子さんが、生まれたばかりの圭太君を抱く写真が入っていた。
涙の跡があった。
写真も、何度も手に持ったようで、シワも多い。
本当は、圭太君を抱きたかったと思う。(祖母として)
その圭太君から、厳しい内容の連絡があった。(実印、印鑑証明付きの文書で)
「財産分与は、受け取りません」
「母は池田を出された人間です、池田の財産を法的に受け取る資格はありません」
「母も生前に、何度も断っていますので、その子が、受け取る理由はありません」
「池田の財産は、池田で対処願います」
「へその緒を受け取れれば、父と母の仏壇に備えます」
「拒否なさるのなら、それを仏前で報告します」
葬儀についても記載があった。
「もし、葬儀になっても、参列は控えます」
「池田商事の社葬に、池田商事を辞めた人間が出るのは不自然です」
「そもそも、私は、会長命令の人事に背いた、本来なら懲戒解雇相当の人物です」
「とても、社葬に参列する資格などありません」
私、池田光子は、その頑なさに、悔しくて涙が出た。
「どうして?実のおばあ様でしょ?」
「この前は、抱いてくれたのに」
「圭太君が辞めたのは・・・圭太君が律子さんのことを、言ってくれなかったから」
しかし、圭太君の深慮も、わかる。(不用意に池田の社葬に出て、顏なじみの社員を混乱をさせたくない)
理屈では、間違いない。
でも、納得できない気持ちが消えないので、圭太君に電話した。
「本当に、財産も葬式も?」
圭太君は、やわらかな声。
「はい、文書で送った通りです」
少し間があった。
「もし、葬儀になっても、出席は控えますが」
「少し間をおいて、池田家の墓参は、させていただきたい」
「よろしいでしょうか?」
拒否する理由なんて何もない。
「わかりました、ありがとう・・・」
「いろいろ、気を使わせて、ごめんなさい」
そんなことを思い出して、またガラス越しに姑の華代さんを見ていると、午後2時頃看護師が近寄って来た。
「池田様、今の華代さんの状態ですと・・・」
「持っても・・・今夜か・・・明日の朝のような」
私は、背筋が一気に冷たくなった。
夫(会長)池田聡は、九州出張中。
しかもゴルフ(当然、現地の女付き、おそらく飲んでいるから連絡がつくのが遅くなる)
それでも、「母危篤、すぐに帰って」のメッセージを送信。(10分待っても既読にならない)
仕方がないので、総務部長吉田満にも連絡。
「旦那をすぐに戻して、お母様が危篤」
総務部長吉田満の声が、慌てた。
「わかりました・・・それで、私も仙台におりまして・・・はい、苦情のお詫びで」
「すぐに総務課と人事部で対応します」
総務部長吉田満は、かつて仙台支店長。
その仙台に愛人がいることも、知っている。
おそらく会長が浮気旅行で九州。
そのスキに、自分も仙台で同じことを、の予想がついた。
私は、ガラス越しに華代さんに話しかけた。
「華代さん、結局、池田の男は、あてにならないね」
「最後の最後まで、お母さんを不安に、不快にさせる」
「気配りのカケラもないよ、お母さんの状態をわかっているくせに」
池田商事の人事部長が来たのは、午後6時だった。
夫、池田聡へのメッセージは、夜7時になっても既読になっていない。
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