第135話圭太の美由紀観察 紀子への態度を決める 由紀に電話で絡まれる

圭太は、紀子と別れて、逆方向のメトロに乗った。

夜の10時近く、酔客が多い。

赤い顔をして、酒の匂いやら、ニンニクの匂いを漂わせている人もいる。


「気を使って疲れている時に、不快な思いをしたくない」

圭太は、マスクを二重にして、酔客たちがいない場所に移動した。


美由紀のことを思った。

「あの若さで、小料理屋を継ぐ決心か」

「帳簿を見て欲しいのは、客観的な他人の判断が欲しいため」

「まあ、美由紀さんも会計士だけれど、実の娘だから、あえて他人に」

「でも、別に俺でなくても、紀子でもいいのに」

「そうか、紀子だと、監査は出来ても実務を知らない、それを見抜いていたか」

「結局紀子は、のん気なお嬢様だ」


「親父さんが倒れたら、次の板前を探して」

「美由紀さん自身は、結婚?」

「でも、立派な配偶者を見つけたほうがいいな」

「板前とか、職人より、サラリーマンのほうが安定している」

「俺が、どうのこうの言う話でもないか」

                    

紀子の「泊りたい」話は、論外と決めている。

「田園調布のお嬢様が、何故下町に泊る?」

「最下層に泊る意味がわからない」

「単なる言葉の戯れで、女子大生の軽口から成長していないだけ」

「あるいは、俺を単に学生時代のままと見て、お嬢様が、もて遊んで捨てるだけの対象として目論んでいるだけか」

「付き合う負い目も理由もない」


圭太は、そんなことを考え、今後、結局紀子とは、「仕事以外の付き合い」は、しないことに決めた。

また、こうも思った。

「下町の男と付き合ったなんて話を知ったら、田園調布の両親が、情けなく、恥ずかしい思いをする」

「紀子の良縁のために、悪影響しかない、それは申し訳ない」

「それだから仕事以外の付き合いは、紀子のために避けなければならない」



圭太は、月島の家に戻って、風呂やら洗濯の雑事を終え、ベッドに入った。

時計を見ると、11時を過ぎている。


少ししてスマホが、光った。

「佐藤由紀」だった。


圭太は、無視しようと思った。(寝ていた、あるいはマナーモードを忘れていたなどを理由にして)

「どうせ泣き言か、文句、しかもどうでもいい」

でも、鳴りやまなくてうるさいので、電話に出た。


「はい、田中です」


案の定、由紀は涙声、怒っていた。

「圭太さん、眠れませんよ」


「そんなに怒って泣いていれば、眠れるわけがないだろ・・・酔ったの?」


由紀の話はぐちゃぐちゃ。

「それは飲みますって!圭太さん、私が嫌いなの?」


「あのさ・・・もう11時過ぎた、明日も監査業務」

「それ理解している?何でこの時間に?」


由紀のお決まりの言葉が出た。

「うるさいです、圭太さん」

続けて、愚痴やら何やら。

「芳香ちゃんとか紀子さんには、いい顔をして」

「この私は無視?嫌いなんでしょ?」

「酔っぱらって、こんな深夜に電話するストーカー女子、馬鹿で嫌いなんでしょ?」


圭太は、話題の転換を試みた。

「ビールにしたの?日本酒?」(やわらかく聞く)

「酔った由紀ちゃんも、可愛いかった、目がトロンとして」(心にもないが、機嫌を取らなければならない)


途端に由紀は笑った。(機嫌がすぐに変わる)

「えへへ・・・そう?恥ずかしいです、圭太さん」

「四合瓶、純米の何だっけ・・・えっと天狗舞」


「今度、もっとレアな地酒を教える」


由紀の声が弾んだ。

「はい、一緒ですよ!やさしくしてくれれば、絡みませんから」

「ダメって言ったら、枕持って今から押し掛けます!」


圭太は、「買っておくよ、由紀ちゃん」と言い、電話を切った。

(眠くて仕方なかった)

(由紀も満足したので、安眠となった)

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