第132話圭太と紀子の夜(2)美由紀と圭太は心が通う
紀子と圭太は、三省堂書店(現在は建替工事中)を過ぎ、靖国通りを渡り、少し坂をのぼる。
狭い路地の小料理屋の前で、真島美由紀(紀子と圭太のゼミの先輩。現在27歳)が立って、待っていた。
「圭太君?そこまで?」
(これが真島美由紀の第一声)(紀子から情報を得ていたようだ)
圭太は、丁寧なお辞儀。
「ご無沙汰しております」
「それから、これを」(間髪入れずに、土産の焼き菓子を渡す)
真島美由紀は、「うれしい!」と、焼き菓子を受け取ったものの、落ち着かない。
「ねえ!早く入って」
「こんな圭太君、見たことないよ」
「とにかく身体に何か入れて、食べて」
圭太と河合紀子は、その勢いで、小料理屋に入った。
(客席は、20席ほど)(どっしりとした昭和レトロ、和風)
(使い込まれ、磨き込まれたカウンター、椅子に安心感がある)
店の奥から、小太りで初老の男性が出て来た。
圭太と河合紀子は、真島美由紀の父吉男で、この店の大将と知っているので、頭を下げる。
圭太
「お久しぶりです」
河合紀子は、それほど間が開いていないらしい。
「今日は、問題の圭太を連れて来ました」と軽口を叩く。
大将の吉男は、圭太を見て驚く。
「うわ・・・その顔は?」
「そうかい・・・大変だったな」
「よくがんばった」(事情も、紀子から娘美由紀に、そして吉男にも伝わっていたようだ)
圭太は、軽く頷くだけ。
逆に聞く。
「女将さんは?」
ただ、聞くまでもなかった。
女将の美千代(吉男の妻、美由紀の母)は、すぐに出て来た。
「あらー・・・・圭太君?」
「美由紀から聞いたわよ・・・」
「もう!泣けたよ!」
「大変だったよねえ・・・」
「お疲れ様、よくがんばった」
大将の吉男が圭太に声をかけた。
「ビールも酒も料理もお任せでいいかい?」
圭太は、すごく楽だった。
(河合紀子も、何も言わない、いつもお任せだから)
(何も考えなくていい、料理の腕の確かさもよく知っている)
河合紀子は、(ある程度)自分が話してあったとはいえ、真島美由紀、吉男、美智代の圭太への態度が、うらやましい程に親密に感じた。
もしかして、自分以上に、歓迎されているような気までして来る。
ようやく圭太と河合紀子がカウンターに座ると、エプロン姿も初々しい美由紀が、目の前に。
上手にビールを注ぐ。
「圭太君とは、久しぶりだね」
(美由紀の顏が少し赤い?河合紀子は気になっている)
圭太は、やわらかな顔。
「こんなきれいな先輩に・・・ドキドキしますよ」
(河合紀子は、圭太の返しに、また焦る)
美由紀は、紀子にもビールを注ぐ。
「ねえ・・・悪いけど、少し圭太君を独占していい?」
紀子は、「嫌」とは言えない。(好きな先輩だし)
「はい、お任せです」(言ってしまって、プチ後悔もある)
すぐに美由紀は、「圭太独占」を始めた。
「大変な苦しみでしょ?誰にも言えず」
圭太は、やわらかな顔を変えない。
「でも、当然のことをしたまで」
「育ててくれた親です」
「やり切れなかったことも多くて、心残りも多い」
美由紀は、圭太の手を握る。
「圭太君、自分を責めないでね」
「それは、お母様も望んでいないよ」
圭太は、手を握られたまま。
「美由紀さんに昔教わった言葉、すごく力になっていました」
「本当に苦しい時に支えてもらった」
「美由紀さんは、受験の時も、母さんの時も女神です」
美由紀の顏が赤い。
「圭太君に言われると照れる」
「でも、うれしい、こちらこそ、ありがとう」
・・・・
美由紀と圭太の親密な会話が続き、河合紀子は、全く介入が出来ない。
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