第131話圭太と紀子の夜(1)

圭太は、午後も、苦情対応報告書を読み、当日の監査業務は終了。

(尚、電気炊飯器不具合の苦情報告書から露呈した不祥事の調査は、役員判断で、国際的な捜査も必要となるため、慎重に根拠情報の収集に着手することになった)


定時に圭太が鞄を持つと、河合紀子が声をかけた。

「たまには、飲みに行かない?」

(もし、他の女が先約していたら、と不安)

(平野芳香が気になる・・・妹視点だけれど、あのハツラツとした健康美と笑顔が気になる)

(佐藤由紀とは、デートしてもかまわない、圭太がなびくとは思えないから)


圭太は、案の定、引き気味。

「俺と?」が第一声。

(そもそも、誘われる意味、理由を、理解していない)


紀子は、圭太のスーツの裾を捕まえた。

「圭太に声を掛けているの、耳がおかしいの?」


圭太は、丸い目を、さらに丸くした。

「まあ・・・うん・・・」

「予定はないよ、でも、なんで俺?」

そこまで言って余計なことまで言い始めた。

「他に相手いないの?」

「偉そうなこと言って、フラれた?」

「その愚痴を聴けってこと?」


しかし、紀子も、タダモノではない。

圭太の、「口の悪さ」は、知り尽くしている。

「ゴチャゴチャ言うんじゃないの!」

「圭太は、いいから付き合いなさい」と、切り返す。


圭太が呆れていると、ようやく「目的地」を告げた。

「大学のゼミの真島先輩が、ご両親の小料理屋を継いだの」

「一度、顔を見せたいなあと、それで圭太も一緒に」


圭太は、頷いた。

「最初から言えよ、わかった」

「花でも買っていくか、他には・・・」

紀子は、花しか考えていなかった。

「うん、彼女の好きな花で」


二人は、途中の花屋で、季節の花詰め合わせを買い、二人のゼミの先輩にあたる真島美由紀の小料理屋に行くことにした。

(尚、圭太は、真島美由紀の好きな焼き菓子店を覚えていたので、そのクッキーも途中で買い、追加した)


紀子は、少し嫉妬。

「案外、細かい気配りだね、私にはないのに」

圭太は表情を変えない。

「いや、美由紀さんには、いろいろお世話になっているから」

「仕事が終われば、甘い物でも食べたくなるだろうから」


紀子は、慣用句かもしれない、いろいろお世話、が気になった。

「圭太、もしかして、美由紀さんと出来ていたの?」

圭太は、フフンと意味深な笑い。

「まあ、紀子より、やさしいしさ」

紀子は、思い切り圭太に絡んだ。

「あのさ・・・それ説明して・・・」

「確かに私より色っぽいかなあ」

「マジに気になる」


圭太は、プッと吹いた。

「俺、恋愛は、知らんよ」

「ただ、受験の時に、教えてもらっただけ」

「そもそも、美由紀さんと俺で、そんな感情起きるわけがない」


紀子は、圭太の鈍感さに腹が立った。

「そんなの・・・圭太が、アホなだけ」

「女の気持ちを、全くわからないし」

圭太は、また切り返す。

「俺・・・男だよ、女の心理は、わからない」

「紀子は、男の心理がわかるの?」

「身体の構造も、心理も、違うさ」


紀子は、言い返せない。

そのまま、圭太に、実力行使。

グイッと、圭太の身体を引き寄せる。

「後で、美由紀さんと、二人で責める」

「覚悟しなさい」


圭太は、「そう?」と笑うだけ。

全く余裕の表情で、歩いている。


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