第130話圭太と芳香の昼食風景を、由紀と紀子が眺める。
私、佐藤由紀は、目を疑った。
圭太さんが、平野芳香と一緒に、ビルの中の共有スペースで、仲良くお弁当を食べているのだから。(しかも、圭太さんは、私には見せないような、やさしい顔だ)
もう、悔しくて仕方がない。
確かに、私は強引に迫って、しかも酔っぱらうし絡むし、落ち度だらけのダメ女子だと自覚している。
でも・・・こう・・・目の前で見せつけられると、気に入らない。
「幼なじみか何か知らないけれど、他社の人間でしょ?」
「我が社の人間と親交を深めなさいよ!」
(昼食までケチをつけるのも、小さな女、器量の狭い女と思ったけれど)
そう思って、一歩踏み出した時だった。
「由紀さん、何がしたいの?」
後ろから、「できる女」河合紀子の声。(しかも強い響き)
「何がしたいって・・・あれ!」
圭太さんと平野芳香を指さそうとしたけれど、それも止められた。
河合紀子
「いいから、圭太はバクバクと食べている、それを見て」
(圭太さんを呼び捨て?こいつも恋敵だった)
(でも、確かに見たことがないほど、美味しそうに食べている、日比谷高校時代の圭太さんみたい)
「いったい・・・どういうことなんです?」(本来恋敵の河合紀子も、大人しく見ているから)
河合紀子は、笑っている。(・・・余裕顏で)
「芳香ちゃんから、連絡あったよ、なかなか気が利く」
「今日の朝とお弁当は食べさせますって」
「圭太のお母様から、圭太好みの味付けを教わっているみたい」
私は気になった。
「その圭太さんの好みの味付けって?」
河合紀子は、また笑った。
「要するに、昔風、完全江戸前らしいよ、塩辛いものが好き」
「お弁当のメニューも教えてくれた」
「塩鮭、塩昆布、佃煮、タクワン・・・今時ないよ」
「その分、お米を増やしたとか」
「栄養学的には、危険かな」
「でも、食べればいいよ、マジに不安だったから」
「要するに、本当は、洒落たものは、食べないとか」
私は、河合紀子の笑顔に呆れるような、でも圭太さんの「食べっぷり」が見ていて面白い。
「江戸の男だったんですね、圭太さん」
河合紀子は、また笑う。
「それでいて、珈琲と紅茶には、講釈たれるの、蹴飛ばしたいくらい」
私は、話題を変えた。
「圭太さん、第一監査部では?」(実態を知りたかった)
河合紀子は、マジな顔になった。
「うん、キレキレ、すごいよ」
「実務に詳しいから、数字の裏を見抜くのが速い」
「文書だけを見ていても、異常性に気付くのが速い」
「課長はが、こっそり言っていた、ごまかせない神の目かなって」
「本当に・・・監査向きだね、ここで、やがてはトップ張れる人」
私は、「平野芳香」に、話を戻した。
「芳香ちゃんって、すごく頭の回転が速くて、気が利きますよね」
河合紀子は、また笑う。
「なんか・・・見ていてさ、ダメ兄とお世話好きの妹って感じ」
「ヘタレ圭太と、健康優良児の芳香ちゃん」
少し間があった。
「でも・・・圭太・・・押されまくりで、疲れているし」
「気に入らん、私には強いのに」
「妹フェチって感じもない、若い子に弱いって感じはなかった」
「芳香ちゃんが強いのかな」
私は、結局、見ているだけの女だった。(打開策も浮かばず、情けない)
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