第129話苦情対応報告書から、企業不祥事に?

圭太は、何食わぬ顔で、第一監査部に入って来た。(公私の区別をつける、その意味で当然ではあるけれど)

じっと(嫉妬の目で)圭太を見る、私、河合紀子に、「おはようございます」と、いつもの(他人行儀な)挨拶。

私の「おはようございます」は、どうでもいいらしい、目も合わせずに、そのまま監査対象の「苦情対応報告書」を見始めた。


その「苦情対応報告書」を読み始めた約1時間後だった。

圭太は、付箋を貼り、メモを取り始めた。(首を傾げている)


私も、「苦情対応報告書」を読んでいたので、気になった。(また、私は見落としたのかと)

「圭太君、何かあるの?」


圭太は、「うーん・・・」とうなりながら、返して来た。

「特定の炊飯器の苦情が多い」

「炊けなかった・・・発火したとかもある」

「タイマーの不具合も多い」

「全て、適切に対応したとの簡単な文言で終わり、関係部署の認印」

「製品交換で済ませているけれど・・・」

「でも、それが半年以上で、件数で言えば、30件以上」


圭太は、マジな目で、私に聞いて来た。

「経産省だっけ、リコール対象に該当するのかな」

「それ知っている?」

「リコールの文言が、報告書にないから」


私がすぐに答えられないでいると、圭太は続けた。

「ここの会社、確か、資料で読んだけど、下請けの工場を変えた・・・安い国に」

「表向きはコスト削減、実態は不明」

「リコール発表をしない、隠すのも問題」

「炊飯器で、毎日使うもので、炊けない、火事までになると、不安で使えないよ」

「適切に対応しました、の内容を、具体的に知りたい」

「製品交換だろうけれど、それだけでおさまるのかな」

「俺の杞憂であればいいけれど」


結局、私では、何も対応が出来ないので、圭太が第一監査部の課長と部長に懸念を説明、結局、対象企業の苦情対応担当課長高田が、呼ばれることになった。


事情聴取の場で、対象企業の苦情対応担当課長高田は、苦しい説明。

要約して言えば(あくまでも秘密裡にとのことで、聞き出した)


炊飯器部品の下請け会社を東南アジアのA国に変えたのは、常務取締役Bの強い意向。

現場担当者たちからは、強い懸念や不安はあったものの、常務取締役Bには逆らえなかった。


(常務取締役Bは、A国に若い頃から遊んで、政府要人にも顏が利く)

(その政府要人から、直接、常務取締役Bに、協力の依頼があった)(脅しかもしれない)

(常務取締役Bの愛人トラブル=変死の、つぐないの疑惑もある)

(遺族補償の金をねん出するため、安い下請け工場に依頼するしかなかった)

(ただ、常務取締役Bが関わった製品のトラブルを公表したり、リコールまで発展すると取締役会が紛糾する)

(常務取締役Bは、会長派閥なので、会長の求心力低下に結びつくから、それは無理)

(結局、苦情対応報告書で書けるのは、その文言だけ、申し訳ない)


対象企業の苦情対応担当課長高田は、苦しい説明を終えて、頭を下げた。

「私は、非会長派閥で、にらまれたらクビです」

「まだ、大学生や高校生の子供を抱え、住宅ローンも20年以上ありまして」


第一監査部部長鈴木は、厳しい顔。

「そんな、あなた方の事情だけで、大切なお客様に迷惑をかけ続けるのですか?」


課長の五十嵐も強く非難した。

「炊飯器は、毎日使います」

「発火して火事になって、大惨事になっても、あなた責任取れますか?」

「私は、許せる事態ではないと思いますよ」


圭太は、「東南アジアA国の事情」に言及した。

「仮に殺人が行われていて、愛人殺しですか?」

「その補償金か、罪隠しの賄賂もあるでしょうね、それを捻出するために」

「低コスト、低技術、低品質管理の工場を使う」

「それと、会社の金を私的流用にもつながる、それで、二重三重の犯罪です」

「取締役Bさんの地位と会長の求心力のためには、人の命もコンプライアンスも、どうでもいい、そういう会社なんですね」


私、河合紀子は、書記として立ち会っていたけれど、圭太は、本当に監査に向いていると確信した。(魂の入った監査が出来る人)(とても、普通の会社、ましてや池田商事に戻すべきではないと、思った)

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