第126話芳香と圭太の朝

翌朝、午前6時58分だった。

玄関のチャイムが鳴った。(圭太は、前夜のコニャックが強くて、まだ寝ていた)

続けて、華やかで明るい声が、インタフォンから聞こえて来た。

「おはようございます!圭太さん!」


圭太は、本当に慌てた。

(そういえば、芳香が朝食を持って来る、それを思い出した)

(寝間着のままで、出るのは恥ずかしいが・・・待たせるわけにはいかない)


圭太は、玄関ドアを、やむなく、開けた。

「ごめん、今、起きた」

「着替えてなくて、ごめん」(顏から火が出るほど、恥ずかしかった)


芳香は、大笑い。

「うれしいです、その姿の圭太さん、初めて」


圭太は、「着替えるよ」と、身を引こうとするけれど、止められた。


「ちょっといいですか?」と言いながら、芳香は近づいて来た。

圭太が、立ち止まっていると、芳香は、信じられない動きを見せた。


「まずは、肉団子です」と言いながら、抱きしめて来たのだから。


圭太は、また慌てた。

「その、肉団子って、何?」

全身が、張りのある芳香の身体に包まれている。

普段は冷静な圭太が、何もできなくなってしまった。


芳香の抱きつきが強くなった。

「圭太さん、お肉が身体にありません」

「だから、私のお肉を、と思いまして」

「どう?美味しいですか?」


圭太は、少し落ち着きを取り戻した。

「すごく柔らかくて、張りがあって、美味しい」

「幸せを感じるよ、芳香さん」

「でも、仕事もある、着替えないと」


芳香は、圭太の身体を一旦強く抱いた後、解放した。

「では、朝ごはんの準備をします」


圭太は、ホッとした顔になるけれど、また攻勢をかけて来た。

「お着替えも手伝おうかな」

「いつも身だしなみが決まっている圭太さんのお着替えも拝見したいなあと」


圭太は、冷静に戻った。

「もう少し肉が身体についてから」

「確かに、骨と皮で」

「それよりも、芳香さんの朝ご飯を、安心して味わいたい」


芳香は、圭太を許した。(安心できる朝ご飯をが、少しプレッシャーになった)

「わかりました、キッチンはよく知っています」

「実は、律子お母さまにも、料理を教わっていますので」


圭太は、苦笑い(今さら、どうにもならないと悟った)で、着替えを済ませ、芳香が待つ、食卓についた。


芳香は、輝くような笑顔。

「江戸前の朝食です」

「アジの干物、ほうれん草のお浸し、アミのつくだ煮、豆腐とネギのお味噌汁」

「それから、ご飯は信州米です」


圭太は、食べ始めて驚いた。

「母さんの味だ」

「というより、この隅田川一帯の味かな」

「すごく美味しい、食欲をそそる味」

「この味噌汁が・・・絶品」


芳香は、勢いよく食べ、圭太に語り掛ける。

「そんなに喜んでもらえるなら、毎朝、毎晩でも」

「いいですか?これが律子お母さまとのお約束ですよ」

「おかわりも、して欲しいです、その味付けですから」


圭太は、芳香の勢いに、完全に押されている。

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