第121話河合紀子は、圭太にデートを迫るけれど

私、河合紀子は、少々難儀したけれど、圭太を昼食に連れ出すことに「成功」した。

(他の監査士も見ていたので、圭太も立ちあがるしかなかった)


昼食場所は、近所の馴染みのバー。(昼は穴場、ほとんど人はいない)(リゾットを出す店、味もいい、元一流ホテルのレストランシェフがマスター)


圭太は少し迷って「トマトリゾット」(カロリーは400ぐらい)。

私は「チーズリゾット」(カロリーは、600ぐらい)。

リゾットにしたのは、圭太の消化力を考えたから。(私の母は、管理栄養士なので、教えも時々ある)


圭太は、少しずつ食べる。(実は猫舌)

「酸味が美味しい、久々だよ、リゾットなんて」


私は、そんな圭太に、警告。

「やせ過ぎ、骨と皮だよ」

「エネルギーゼリーだけの生活は、やり過ぎ」

「お母さまも、そこまでは、望んでいなかったと思うよ」


圭太は、うん、と頷く。

「今から思うと、そうかな」

「母さんが、いつ何時どうなるかが心配で、食器洗う手間も惜しんだ」

「実際、急変が何度もあって」

「月に数回・・・そんな時期もあった」

「死ぬ直前の時期は、安定、それも意識不明で安定」


そこまで言って、圭太は、謝った。

「ごめんな、飯が不味くなる」


私は、その圭太の「謝り」に、胸が締め付けられた。

「圭太、私には何でも言って」

「今まで、誰にも相談できずにいて」

「ごめん、強いこと言って」


リゾットも、少し冷めて来たようで、圭太の食も進む。

そこで、思っていたことを聞いてみた。(実は、一番気にしていること)

「今後は、どうするの?」(恋愛とか、結婚の意味)(圭太は気がつかなかった)


圭太は、目を丸くする。

「今後?午後は監査だろ?」


私は、圭太を真正面から見る。

「そうだけどさ、でね」(噛んでいる、いざ、という時の悪い癖)

「二人の美女とデートして」(なんか、ジェラシー女みたい)

「私は?」(おねだりする子供だ・・・恥ずかしい)


圭太は、すぐに答えない。(リゾットを飲み込んでいる、噛まない・・・急かしてごめんなさい)

「今、紀子とデートしているよ」(案の定、ボケた返しだ)


面倒だから、無理やりだ。

「夜のデート、今はお昼」(当たり前過ぎ、もう、冷静な河合紀子は捨てた)


圭太は、首を横に振った。(厳しい顔に戻っている)

「私生活で、もう一つ、二つ面倒な案件がある」

「誰にも口外できない、これは紀子にも」

「銀座監査法人とか、その監査とは、別世界の話」

「あくまでも、個人的なこと」

「それを、しっかり考えたい」


その厳しい顔に、私は、震えた。

だから、声も小さい。

「私にも言えない?」

「私が嫌いなの?」(少し潤んだ)


圭太は、私の手を握った。

「嫌いだったら、こんなこと言わない」

「紀子は、信じている」


私は、圭太の手を思い切り握り返した。

(私は、圭太が好き・・・どうしようもないほどに)

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