第118話法事後、圭太は様々に思い悩み苦しむ。
墓参を終え、(参列者全員を見送った後)、圭太は一人でマンションに帰った。
「御仏前」の整理(PCへの打ち込みを含む)を終え、珈琲を飲む。
僧侶から新盆と施餓鬼供養の手引きを受け取っていたので、サラッと読む。
本当に、「寺にとって、人の死は儲け話」と思うが、下手に拒絶して、恥さらしにもなりたくない。(そんな古風な考えも、圭太自身情けないと思っている)
新盆用の大きな祭壇は、狭い部屋で無理なので、「簡素なものにする」と決めた時点で、疲れを感じた。(緊張が緩むような感覚)(そのままベッドでひと眠り)
目が覚めたのは、午後4時過ぎ。
まだ、ボンヤリしていると、池田光子から電話があった。
「華代さんに、圭太君が立派に法要を済ませたことを、報告しました」
圭太は、「ありがとうございます」と、心を込めてお礼を述べた。
午後6時になっても、食欲はない。
肌寒い感じがあるので、外出はやめた。(結局、冷蔵庫のエネルギーゼリーで済ませた)
ようやく落ち着いて来たので、池田華代からの財産分与の書面を読む。
「杉並の土地・・・すごいな、300坪もある」
「建物の古い洋館は、池田商事時代に先輩に教えてもらった」
「固定資産的には廉価かな」
「預貯金は・・・億単位、さすが中堅財閥の創業者直系」
「池田商事の株券もある」
「難しいのは、遺言書の形で、池田聡と光子の実印付きか・・・」
少し考えた。
「本当は、母さんに渡したかったのかな」
「池田聡には、充分過ぎるほどの財産が既にある」
「しかし、娘の律子には、渡していない」
「そんな悔やみがあるのか」
「それで、血がつながっている俺に」
「結婚に反対した池田華代の親は、とっくに死んでいて」
「自分の財産を処分するのに、誰に文句を言われるわけではない」
池田聡と光子のことを思った。
「あの夫婦に、子はいない」
「池田聡の浮気も聞いたが、隠し子の話はなかった」
「そうなると、池田の血縁は・・・」
「残るのは・・・」
圭太は、馬鹿馬鹿しいと思い、財産分与の書面を、金庫にしまい、鍵をかけた。
「俺は、田中圭太だ」
「法的には、池田家とも、池田商事とも、切れている」
「それを考えれば、財産分与を受ける資格は、ない」
「池田のことは、池田で決着をつけるべき」
「血縁がなければ、養子でも何でも、処置すればいいだけのこと」
「非情も何も、それは、池田の責任」
「母さんを実子と認めなかった、池田家の罪」
「その罰は、受けるべき」
「創業者一族が経営陣から消えるのは、よくある話だ」
圭太は、ソファから歩いて、窓辺に立った。
カーテンを開けると、墨田川の向こうに、池田華代が入院する病院が見える。
決めた心が、また動いた。
「池田華代さんも、苦しいのだろうか、痛いのだろうか」
「俺は、その華代さんに、ますます苦しみを与えるのかな」
「池田家への断罪として、恨みを果たそうとして」
「それを、母さんは喜ぶのだろうか」
母律子のやさしい顔と、池田華代の苦し気な顔が浮かんだ。
途端に圭太は、胃の痛みを覚えた。
あまりにも痛いので、ソファに転がり込んだ。
「どうすればいい?」
「俺が受けても意味はない」
「受け取るとなれば、池田を許すことになる」
「母さんに、あんな酷いことをした池田を許すのか?」
不安も、迷いも浮かんで来た。
「もし、池田華代さんが亡くなった場合」
「俺は、何の肩書で参列するのか?」
「池田商事の元社員か?あり得ない」
「池田聡と光子は、母さんの法事に参列したが・・・」
圭太は、胃の痛みもあって、ほとんど眠ることが出来なかった。
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