第116話佐藤由紀とのデートの後で

圭太は、やさしい目。

「今夜は、ありがとう、送って行くよ」

佐藤由紀は、自分の「蕩け」が恥ずかしい。

しかし、圭太への迫り過ぎも、母芳子に厳しく止められている。

ただ、やはり、帰りのタクシーの中、由紀は圭太から全く身体を離せなかった。


佐藤由紀は、実家の前で降りた。(本当は圭太の家に行きたいけれど、我慢した)(難しい性格の圭太と、こじらせたくない)


家に入ると、母芳子に、そのままつかまった。

ただ、話は「恋愛がらみ」ではない。

「圭太君は、完食できたの?」

由紀は、素直に「報告」。

「うん、寿司はソウルフードとか、食べ方もきれい」

母芳子は、微笑んだ。

「うん、さすが圭太君、江戸前を知っている」

「本当は、もっと元気な子だから」

「地味なのは、表面だけ」

由紀は、頷いた。

「言葉も気持ちも深い人、難しい時もある」

母芳子は、頷いた。

「それは、由紀が未熟なだけ、よく考えればわかること」

「いいなあ・・・圭太君、昔風で堅いけれど」



佐藤由紀の実家での会話はともかく、圭太自身は、かなり疲れて、マンションに戻った。

ソファに座り込んで、少し動けないほどだ。

「二日連続か・・・俺も酔狂なことを」

「法事がなければ、両方とも出席なんて言って来なければ、こんな気苦労はしなかった」

「今さら、グチグチ言うのも、馬鹿げてはいるけれど」


少し休んで気を取り直して、紅茶を口に含む。

「明日は出勤、普通に仕事をして」

「明後日の土曜は、法事の準備」

「法事の準備と言っても、礼服の準備」

「お布施を作って、お返しの量か・・・少し多めにか、葬儀社はそう言っていたな」

「池田まで来るのか、面倒だ」

「あいさつは、定番に、母さんと池田の関係は、言う必要もない」


その後は、風呂、洗濯などのルーティンをこなし、気分が変わった。

法事の次の週の土日を考えた。

「まだ、遺品整理は、したくない」

「一泊旅行でもするか」

「俺の旅行だから、地味な場所がいい」

「丹沢は行ったばかり、そうなると・・・」

「あまり、遠出も嫌だ」


圭太が、選んだのは、やはり地味な伊豆長岡温泉だった。

かつてほどの観光客は、ない。

ただ、海が近いので、刺身は新鮮。

山深い丹沢よりは、やや、明るさもある。


そのままネットで予約。(少し高めの2万円の部屋にした)

葬儀や法事の骨休めの気持ちを込めた。

母と父の遺影に、手を合わせた。

「たまには、休みたいよ」

母と父は、また、笑っているような感じなので、ホッとした。


夜、10時半にベッドに入った。

スマホに、佐藤由紀からのメッセージが入っていた。

「今夜は、ありがとうございました」

「圭太さん、大好きです」


圭太は、やはり定番の返信。

「ありがとうございます」

それでも、つけ加えた。

「おやすみなさい」


眠りに入ろうとする前に、池田華代が気にかかった。

「苦しいのかな、痛いのかな」

「そうかといって、あの時は、池田光子さんが、どうしてもと言ったから」


「痛みで、ロクな話にもならないだろうが」

「財産受け取り拒否を言ったら、苦しませるのだろうか」


圭太は、悩む。

「いらないものは、いらない」


しかし、違うことも考える。

「少なくとも、池田華代に悪意はないな」


圭太は、しばらく考えたけれど、結論は出なかった。

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