第115話由紀と圭太のデート②

圭太が、あえて話題を「映像詩」に変えたのは、佐藤由紀があまりにもベタベタと迫って来るから。

(その熱心な想いは、突き放すべきではないと思うけれど、受け入れることは、自分以上に佐藤由紀にリスクのある行為と考えている)

(両親と死別した孤児のような自分ではなく、立派な二親が揃った男と結婚する方が佐藤由紀のためになる、と思っている)


圭太は、慎重に言葉を選ぶ。

「動画サイトで、春日大社とか、明日香村の風景に、音楽をかぶせた映像詩がある」

「時々、疲れた時に見ている、実に素晴らしいから」

「かの入江泰吉さんの弟子らしい」


佐藤由紀も、その動画を見ていた。

「はい、見たことがあります」

「もう、芸術の世界で、神秘を感じます」

「あれを、圭太さんも?」


圭太は頷いた。

「ここから近い武蔵野とか、鎌倉で映像を撮りたい」

「音楽も選ぶのは難しいけれど」


そこまで言うと、寿司が出て来た。


佐藤由紀は、圭太に目で合図。

「いただきます」と言うと、うれしいことに、圭太も「いただきます」と、やわらかい声。

一緒に食べ始める。


圭太は、情けないことを言う。

「全部食べられるかな」

佐藤由紀は、強めの口調。

「全部食べないと、ダメです」

「圭太さんを太らせたい」

圭太は、笑う。

「少しずつだよ、そういうの」

佐藤由紀は、圭太の食べる様子を注視する。

「でも、お寿司は、いつもより食事が進んでいます、安心です」

圭太は苦笑い。

「先輩イジリが好きなの?」

佐藤由紀も、これは笑った。(うれしかった)

「はい、押し倒して、食べたいです」(本音を言った、恥ずかしくない)

圭太は、クスッと笑う。(真鯛を食べている、味の薄いネタからを守っている)

「捕食対象なの?」

佐藤由紀は、茶碗蒸し。

「そうです、だから栄養を与えて、後で食べます」

圭太は、呆れ顔。

「それ言って、恥ずかしくないの?」

佐藤由紀は、口を尖らせた。

「圭太さんなら、言いたいもの・・・いつも、言葉責めされるし、お返しです」

圭太は、アナゴを口に入れた。

「言葉責めねえ・・・あまり記憶にない」

佐藤由紀は、圭太を軽く睨む。

「後で、お尻蹴ります、いいですよね」

圭太は、由紀をいなした。

「お寿司で酔ったの?」

「ヒールはコケやすい」

佐藤由紀は、めげない。

「背負って帰ってもらいますよ」

「圭太さんの背中好きです」

圭太は、煎茶を飲む。

「お尻を蹴って背中フェチなの?」

「珍しい性格だ」

由紀は、デザートのメロンを食べる。

「私、そもそも圭太さんフェチです」

「花の女子高生の頃から」

「でも、圭太さんは、鈍感なので、なーんにも気がつかない」

圭太も、ようやくメロンにたどり着いた。

「由紀さん」と真面目な顔。

由紀は、その真面目な顔に、胸がキュンとなる。

「はい・・・」

圭太は、やさしい目。

「今夜は・・・」

由紀は、その声の響きが、身体の奥に響いた。

危険なほどの「蕩け」を感じている。

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