第114話由紀と圭太のデート①

由紀の胸が三回当たった時点で、圭太は「穏便に」声をかけた。

「あの・・・腕に違和感が」(あまり上手な表現とは、圭太自身思わなかった)


由紀は、圭太の「穏便ではあるけれど、下手さ」が面白かった。

「あはは、わかりました?鈍感圭太さん」(ここで責め感がアップした)

「私の胸って、圭太さんの腕が好きなんです」(そう言いながら、また押し付けた)


圭太は、面倒なので、当たるままにした。(お好きにどうぞ、感覚)

そのまま話題を変えた。

「映画も懐かしかった、ありがとう」


由紀は、意外だった。(そんなに見ていなかったのかと)(日比谷高校時代、映研時代は博識だったことを思い出した)

そして、また責めたくなった。


「大学時代に、紀子さんとは、行かなかったの?」

(銀座監査法人の女性ホープ、スレンダー美人)

(圭太と大学時代の交流は、噂で知った)

(今は圭太とペアを組んでいる、由紀にとっては、自分から圭太を取り上げた憎らしい女である)


圭太は、軽く笑った。

「紀子と?まさか・・・行くわけないよ」

「俺にも、バイトがあった、毎日だから」


つけ加えた。

「学生時代の紀子は、とにかく高飛車で・・・今もそうかな」

「理屈ばかりで、現実を見なくて、議論はしたよ」

「でもさ、映画で高飛車な理屈を言われたら、映画の風情もなくなる、それが嫌だから」

「誘いもしないし、誘われても断った」


由紀は、また思うことを、そのまま口にする。

「安心しました」

「圭太さんと紀子さん、できているのかなと」


圭太は、肩を揺すって笑う。

「あり得ないって・・・紀子は、俺に興味はないよ」

「俺もない、仕事だけさ」

由紀は、まだ不安。

「紀子さん、そうじゃない目つきです」


圭太は、どうでもいいので、また笑う。

「発情期?紀子に?怖いよ、それ」

「逃げ出さないと・・・俺は遠慮する」


由紀は、また別の質問。

「昨日の女の子は?」(この質問のほうが不安だった)(自分より若くて、ハツラツ美少女だったから)


圭太は、あっさりと答えた。

「ああ、近所の長年のお付き合い」

「縁があって・・・まあ・・・」

「妹みたいな、いい子だよ」

「彼女と彼女のご両親も、法事に出席してくれるのでね」

「同じビルで、弁護士」

「今後、仕事で協力もしてもらおうかと」


由紀は、圭太にぴったりと寄り添った。

「じゃあ・・・私は?」(出せる限りの甘い声・・・甘えたかった)

圭太は、やさしかった。

「可愛い後輩かな」(由紀は、その言葉で天国に飛んだ)


少し間があった。

「でも、酔っぱらうと、面倒」

「それは勘弁して欲しい」(突き落とされた感じ、だからしがみついた)


由紀は、また潤んだ。

「持ち上げて見たり」

「突き落したり」

「もう・・・意地悪です、圭太さん」(圭太が愛おしくて、どうにもならない)


予約していた寿司屋が見えて来た。

由紀は、湿った声。

「個室にしました」

圭太は、頷く。

「ああ、ありがたい」


寿司屋の個室に入って、向かい合って煎茶を飲む。


圭太は、全く意外なことを言い始めた。

「法事が終わったら、やりたいことがあってね」

(その目も輝いているので、由紀は驚いた)

由紀

「その目、懐かしい、高校生の時の圭太さんです」


圭太は、真面目な顔。

「映像詩を作りたいなと、そのプランを考え始めている」

由紀の「映像好き心」が激しく刺激された。

(圭太の次の言葉が楽しみで仕方がない)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る