第112話圭太の非情監査と対応 紀子にフォロー

圭太のその日の監査は、外部にはとても口外できないような、分析・指摘事項の連発だった。

結果として、

「接待交際費における三系統の不正な資金の流れ」は、それぞれ、

「経済産業省次官」「経済産業省次官が出馬する派閥のボス」「与党幹事長」に通じていたことが、判明した。

(詳細は省く)

(監査対象企業担当者が顏を蒼くして、白状した)

(圭太と監査部長、監査課長の追及も厳しかった)

(折に触れて国税や地検への通報を言ったので、担当者は震えあがった)


そんな様子を「見ているだけ」しかなかった、河合紀子は、自信喪失状態に陥っていた。

「接待交際費の領収書全体から言えば、一割にも満たない」

「圭太は、それを見逃さない、あっという間に三系統の不正を暴き出してしまった」

「私の目は、ふし穴?」「ザル監査?」

「確かに、スピード重視、それで私の評価が上がった」

「でも、数字を表面で見るだけ」

「確かに中身がない、ザル監査だった」


昼休みの休憩時間も、河合紀子は圭太に声をかけられなかった。

食事に誘うどころではなかった。

(圭太は、部長、課長と一緒に会長室で昼食だった)

(監査対象企業トップと政界への裏工作も、そこで行われたようだ)


「話」がついたらしい、午後1時少し前に圭太は戻って来た。

圭太から声をかけられた。(やさしい声だったので、泣きそうになった)

「美味しかった、幕の内だった」


だから、聞き返した。

「幕の内好きなの?」(本当は昨夜のことを、謝りたい)

圭太は、少し笑った。(見て、うれしかった)

「好き?・・・うーん・・・たまに食べると美味しい」


監査の「裏工作」も気になった。

「圭太君、何とかなりそう?」

圭太は、苦笑い。

「まあ・・・正義か不正義かで言えば、大いに問題がある」

「でも・・・これが公表されれば、路頭に迷う人が、数十万人」

「財閥系大企業といえども、ハゲ鷹外資に二束三文で買収されて」

「そのハゲ鷹外資も、経営内容はデタラメ、怪しい筋の金の亡者」

「あえて、そんな奴らに売り渡すこともなかろうと、企業にも与党にも恩を売った」

「しっかり改善提案はしたよ、丸く収めた」


私は、身体全体の力が抜けた。(潤んでしまった)

「ありがとう、助かった」

圭太は、やさしかった。

「胸を張って、誰でも見落としはある」


でも、悔しい。

「今夜は、佐藤由紀と?」(できたら、私と・・・もっと慰めて)(佐藤由紀なんて、どうでもいいから)

圭太は、ため息。(・・・本音顏?)

「母さんと、佐藤由紀の母さんが親友なんだ、家にも来ているし、俺も招かれた」


それも悔しかった。(そこまでの関係はなかったから)

「私の家にも来て」(無理やりかな)(・・・重い?いや、私を救ってくれたお礼だよ)


圭太は、素直に答えた。(うれしかった)

「とにかく日曜日の法事を過ぎないと、落ち着かない」


そんな話も、数分、午後1時ジャストから、圭太は、また違う監査資料を見始めた。

監査対象企業の「苦情対応報告書」だった。


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