第111話河合紀子の気持ちと圭太

私、河合紀子は、眠れない夜を過ごした。

その原因は、圭太と平野芳香のデート。

その上、今日の夜は、佐藤由紀と映画館デートらしい。

もちろん、圭太が望んだデートではないことも、重々承知。(圭太は、二股デートを連夜できるような器用な男ではない)(むしろ、ガチガチの古風な重い男だから)


圭太は、

「四十九日の法要で、両方とも出席してくれる」

「だから、トラブルを避けるために、受けた」

「俺は、器用に断れない、突き放してしまうから」

と言った。


それには充分、納得した。

お母様の四十九日で、トラブルを起こしたくない(お母様が心配で成仏できなくなる)

それと圭太の拒絶は、確かに突き放し型だ。(何度も蒼くなった、突き放されて)


でも・・・そんな納得を、「嫉妬」が凌駕した。(圭太が好きなので、我慢できなかった)

だから、昨日の夜9時に、圭太に怒鳴り込みの電話をかけた。

そうしたら、なかなか電話に出ないし、出たら出たで、ボケた返しの連続だ。

だから、私は、キレた。


「この!馬鹿!」


・・・圭太も呆れたようだ。(そのままスマホの電源を切った)


申し訳ないと思った。(アホな嫉妬を反省した、謝りたかった)

少し間をおいて、何度も電話した。(すべて電源切りで、通じなかった)


「嫌われた?」

「生きる気力が無くなる」

「他の女を抱くの?」

「若い子がいいの?」

「どうせ、年増ですよ」

「圭太とは仕事だけの関係なの?」

「もっと笑ってよ、学生の時みたいに」

「あんなにやせて・・・」

「そこまで大変なの?病人を心配しながらの生活」

「ごめん、圭太が苦しんでいるのに、何もできなくて」


そんな思いが浮かんでは消えて、その連続。

結局、眠れなかった私の前に、圭太が出勤して来た。

圭太は、ふんわりとした微笑。

「おはようございます」(・・・昨夜のことは、何とも思っていないの?)


「あ・・・ごめん、おはようございます」(噛んだ・・・顏も真っ赤だ)

言い直した。

「昨日の夜は、ごめんなさい、興奮して」


圭太は、監査資料を見ている。

「少し気がついたことがあります」

「異常な領収書に、同じ筆跡が、三系統」

「つまり、三人の手で、不正処理が行われています」

「その先を追う必要があります、原因も聴かないと」


あまりの冷静な口調に、私は、頭がグラグラとした。

でも、聞いてみた。

「許してくれるの?」


圭太は、横を向いた。

「さあ・・・何のことです?」


私は、足がガクガクと震えている。


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