第110話翌朝の圭太
翌朝、圭太は少し早くマンションを出た。
近くの銀行の前で、平野芳香の母和美に挨拶。(平野和美は銀行の前を、掃き掃除していた)
「おはようございます、昨晩は娘さんと」
平野和美は、深く頭を下げた。
「ご迷惑なことは?」
圭太は、ふんわりと笑った。
「いえ、妹のような」
「不摂生を叱られました」
この圭太の笑みは、平野和美を笑わせた。
「確かに・・・やせ過ぎですよ、圭太さん」
そのまま圭太の手を握った。(表情は、神妙に戻っている)
「いろいろ大変だったんでしょ?お母様のことで」
「お役に立てなくて、ごめんなさい」
圭太は、ふんわりとした顔のまま。
「娘さんに、法律を教えてもらおうかと」
「その際に、お借りします」
平野和美は、笑った。
「え・・・芳香を?圭太さんの役に立てるのかな?」
圭太は、さわやかに笑い、平野和美の手を握り返す。
「良い一日を」
平野和美は、慌てた。(ようやく握った手を離す)
「あ!はい!」
圭太は、笑顔で軽く手を振り、月島の駅に向かって歩き出した。
圭太を見送った平野和美は、胸がドキドキしている。
「大人だ・・・圭太君」
「筋を通す男か、いいなあ」
「嫌味がない、ますます気に入った」
「芳香は、いい男の人に惚れた」
「でも、妹かな・・・すれ違うかも」
圭太は、地下鉄に乗ってから、ようやくスマホの電源を入れた。
画面には、たくさんの着信記録がある。(全く気にしてはいないけれど)
「どうせ、会社のビルに全員がいる」
「用事があれば、言って来る」
「スマホの電源を入れるのも入れないのも、持ち主の自由」
そのまま、何もせずに、銀座監査法人のビルの前に着いた。
「圭太さん!」
後方から、佐藤由紀が走って来て、並んだ。
圭太は、忠告。
「佐藤さん、危ないよ、朝から転んでも洒落にならない」
佐藤由紀は、めげない。
「圭太さんだから、支えてくれますよね」
圭太は苦笑い。
「そういう話では、ありません」
「監査士として、品位のある言動を心がけるべきと、思います」
佐藤由紀は、顏を真っ赤にした。
「どうせ、おてんば娘ですよ」
「その、おてんば娘を論破して、どういう気分です?」
圭太は、佐藤由紀に、真面目な顔。
「今日も、適正な監査を」
スッと一礼、第一監査部の部屋に姿を消した。
(佐藤由紀は、今夜の映画館デートについて、全く話題にできなかった)
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