第103話平野芳香のスパート①
私、平野芳香は、老舗洋食店に入る直前、また勝負に出た。
「圭太さん、腕組みますよ」
圭太さんに、ためらいも拒絶も、そんな抵抗の時間は与えなかった(計画通り)
ドキドキする胸をぶつけながら腕を組んでしまった。(もう、体当たりかも)
圭太さんは、笑った。
「そういう性格だったの?」
だから、私は逆に聞いた。
「どういう性格だと?」
圭太さん
「お上品な・・・お姫様」(これ・・・危険・・・フワフワする)
でも、私は、圭太さんには、何を言われてもよかった。
何を言われても、圭太さんは、今は私のものだから。
何故、こんな老舗を選んだのかは、単純。
特に地元では知られた美味しい店だから。
圭太さんは、ビーフシチューとパン。(どうしてパン?日本人なのに、と思った)
私は、ハンバーグとライス。
ワインは、圭太さんが「喪中」と言ったので我慢した。(来週は飲ませよう)
圭太さんは、きれいに食べる。
「ここ、高校生から通っている」
私は、驚いた。
「値段は・・・高校生にしては高いのに?」(大人向きの価格、味も)
圭太さんは、あっさり。
「母さんと来た、時々ね」
「税務は、神経を使うから」
私は、頭を下げた。
「お母様には、本当にお世話になって」(ウルウルする・・・やばい)
圭太さんは、美味しそうに食べる。
「このビーフシチューは、絶品」
「最後にパンに残りのシチューを付けて食べる、それが好き」
私は納得した。
「それで、パンと・・・気がつかなかった」
圭太さんは、やさしい顔。
「とにかく、あまり気にするな」
「気にされると、親父も母さんも、往生できないよ」
私は、首を横に振った。
「そんなの無理です」
「圭太さんの、そばに置いて欲しいなと思います」(本音だ、それしかない)
「・・・恋人でなくても」(また、ウルウルして来た・・・やばい)
ところが、圭太さんは変なことを言った。
「恋とか、愛も関係ない男だから」
「生きているだけだよ」
「平野さんは、明るくて立派な男の人と、楽しい恋愛をして結婚すること」
「それが、俺からのお願い、頼むよ」
私は、納得出来なかった。
「嫌です、そんなの」
「本当は、彼女さんがいて」
「・・・私が邪魔なの?」(・・・引き下がる気はないよ、そんな半端な気持ちでないもの)
圭太さんは、やさしい顔を変えない。
「まあ・・・いろいろある・・・言えないことも」
「解決できない思い・・・平野さんのことではないよ」
「平野さんは、大事にしたいなあ、幸せになってもらいたいなあと、思っている」
私は、またウルウルした。
「冷たいことを言ってみたり、また・・・やさしいことを」
圭太さんは、アイスを一つ注文してくれた。
「泣き虫だったの?」
「そういう子にはアイス」(・・・ったく・・・そのお口奪ってあげたい)
だから、私もしかけた。
スプーンをもう一本。
「一緒に食べましょう、圭太さん」
圭太さんは、苦笑い。
「俺に甘い物は、似合わない、恥ずかしい」
(結局、圭太さんを目で制して、一緒に食べた)
老舗洋食店を出てからのほうが、ドキドキした。(腕は、しっかり組んだ)
「圭太さん、こうしていると、恋人みたいですね」(また、スパート開始!)
圭太さんは、「アハハ」と軽く笑う。
「兄と妹感もある」
「それも、フラフラ兄さんを、しっかり者の妹が支えている感じ」
私は、反応に困った。
「痩せた寅さんとさくらさん?」
圭太さんは、意外なことを言い出した。
「そう言えば、葛飾柴又も随分行っていない、たまには行くかな」
私は、すぐに乗った。
「連れてってください!草団子食べたい」
(そのまま、圭太さんをグイッと引き寄せた)
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