第101話圭太の策略 非情
午後は、厳しい監査実務。
河合紀子と圭太は、わき目もふらず、接待交際費の点検。
午後4時30分の時点で、1年間分の点検を実施、問題点を表にまとめ終えた。
河合紀子は、圭太に頭を下げた。
「ごめんね、私の不始末が原因だよ」
圭太は、首を横に振る。
「気にするな、これからが大変」
第一監査部部長の鈴木と課長の五十嵐が、二人に寄って来た。
部長鈴木は圭太に声をかけた。
「仕事が正確で速い、は本物だね」
圭太は、表情を変えない。
「それより、どう始末をつけるのか、難しいですね」
「大きな問題になる可能性もあるので」
課長五十嵐は、顏を曇らせた。
「こちらにも監査ミスがあるから、相手と交渉が必要になるかな」
その指摘で、河合紀子は青い顔になったので、圭太はそっと支えている。
圭太は、強気の表情。
「相手も、公表されると困るわけです」
「何人も首が飛ぶし、逮捕者も出る、株価も下がる」
そこまで言って、声を低くする。
「手元にカードを残したまま・・・痛み分けを探る」
部長鈴木は、苦笑い。
「ほう・・・何か、すごいカードがあるの?」
圭太は、即座に作成した表の「とある項目」を示した。
課長五十嵐は、うなった。
「これ・・・この相手は?」
圭太は、頷く。
「はい、経産省の次官です、現在判明した金額で約5千万」
「それも、巧妙に時期をずらして、接待しています」
「ただ、彼も忙しいのか、場所はいつも銀座のレストラン・・・実は高級クラブ」
「次の選挙に出るとか出ないとか・・・確か首相派閥」
「まあ、余罪もあるでしょうが」
また、少し声を低くした。
「彼以外にも、そういう案件は現時点で、十数件」
「マスコミとか野党にとっては、宝の山です」
そこまで言って、間を置いた。
少し、大きな声。
「監査人としては、嘘偽りはできないわけです」
「指摘事項があれば、そのまま指摘」
「監査ミスがあれば、堂々と言い、謝罪する」
「それだけです」
専務高橋美津子が入って来た。
圭太をじっと見た。
「話は概ね、わかりました」
「交渉は、幹部で行います」
「それでいいかしら」
圭太は、厳しい顔を変えない。
「了解しました」と頷くのみ。
そんな緊張する時間が終わり、圭太は、失意の河合紀子に声をかけた。
「心配しないでいいよ、俺に任せろ」
河合紀子は、脚が震えている。
「私、首かな・・・降格かな・・・」
圭太は、倒れそうな河合紀子を支えた。
「いいから、気がつかなかったで、押し通せ」
「そういうミスは、第一監査部だけではない」
「何があっても、守るよ」
そんなことを言っている間に定時になった。
圭太は、素早く机の上を整理。
鞄を持ち、銀座監査法人から退社した。
「一緒にいてよ・・・馬鹿!」
河合紀子のその思いは通じなかった。
窓から、圭太と平野芳香が楽しそうな顔で歩き去る姿を見ているだけだった。
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