第90話平野芳香と圭太②

平野芳香が話題を変えた。

「私、実は、圭太さんと同じビルにいるんです」

「圭太さんは、1階の銀座監査法人」

「私は、2階の中央法律事務所」


圭太は、驚いた。

「もしかして、弁護士資格を?」


平野芳香は、恥ずかしそうな顔。

「はい、去年、合格して」

「でも、実務に乏しいので、見習いみたいなもの」

「この4月から、お世話になっています」


圭太は、納得した。

「それで、見かけたことがあると」


平野芳香

「いつも、お忙しそうで」

「難しい顔をなされて」


圭太は、適当に返す。

「ごめん、元来無愛想だけが取り柄なので」


平野芳香は、探るような顔。

「時々、きれいな女性と一緒で」

「声をかけたら申し訳ないと」


圭太は、笑って首を横に振る。

「監査法人の先輩で、高校では後輩」

「単なる仕事上の関係」

「だから、私とは別に彼女も幸せで立派な結婚をすると思います」


平野芳香は、少し首を傾げた。

「圭太さんはともかく、あの女の人は、圭太さんに気があるような」


圭太は、それにも否定的。

「いや、あったとしても、一時的かな」

「彼女の一方的な思い込み」

「少し感情に走るタイプ」


平野芳香の表情が、少しやわらかくなった。

「私は、ずっと圭太さんを気にしていました」

「お母さんとも、よく圭太さんの話に」

「だから、何があったとしても、圭太さんの役に立ちたいです」


圭太は、平野芳香を制した。

「そんなことは、気にしないでいいよ」

「さっきも言ったけれど」

「過去は過去。どうにもならない」

「あなたは、あなたの幸せを求めて欲しい」


少し間をおいた。

「弁護士は、とても神経を使う、仕事」

「だから、気持ちが休まる人と一緒のほうがいいかな」

「大らかで、それでいて、気持ちを察して、やさしくしてくれる人」


平野芳香は、クスクスと笑う。

「それ・・・よく考えて欲しいんです」

「私にとって、そういう人は・・・」

「圭太さん、そのものですから」


平野芳香の言葉は止まらない。

「本来は憎まれる私、憎まれるべき私」

「その私をやさしく受け入れて励ましてくれる、その大らかさ」

「それから、圭太さん・・・気がついています?」

「圭太さんって・・・気が休まる人です、話をすればするほど」

「女が、追いかけたくなる人です」


圭太は、佐藤由紀や、山本美紀、佐藤絵里にしたような「突き放し」は、どうしても平野芳香にはできない。

ただ、「恋愛も結婚もしない」と決めているので、ただ聞き流している状態になっている。

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