第84話池田華代と圭太
圭太は、池田光子に伴われて、池田華代の病室に入った。
かなり豪華な病室、母律子のシンプルな病室とは、雲泥の差。
池田華代は、目を開けていた。
池田光子が、「圭太君ですよ、お母さん」と言うと、途端に目を潤ませた。
池田華代は、懸命に、その痛む身体を起こした。
「圭太君?」
圭太は、「はい」と静かに答え、池田華代の前に立った。
池田華代は、腕を懸命に伸ばした。
圭太は、その意を察して、抱きかかえた。
「ごめんなさい」
華代の声は、聞き取れないほどの、涙声。
圭太は、心を込めた。
「お逢いできて、よかった」
華代の声が、はっきりとした。
「もっと逢いたかったよ」
「みんな、私が悪い」
「苦労かけて、ごめんなさい」
そこまで言って、詰まった。
「律子を・・・ありがとう・・・」
圭太が背中を撫でると
「これで、ようやく律子に逢いに行けます」
と、落ち着いた声。
圭太は、もう一度背中を撫でて、ベッドに寝かしつけた。(この動きは、母律子の看病で慣れていた)
中年の看護師が涙声。
「ありがとうございました」
「華代さん、幸せね」
「こんなハンサムなお孫さんに抱かれて」
池田華代は、その通り、うれしそうな顔。
それでも、疲れたのか、目を閉じている。
病室の引き出しから、池田光子が、一通の封筒を出して、圭太に渡した。
「これは、家に着いてから見てください」
「池田聡も、了解しています」
病室を出て、池田光子が深く頭を下げて来た。
「お母様は、本当にうれしそうでした」
「ありがとうございました」
圭太も頭を下げた。
「いえ、お逢いできて、良かったと思います」
池田光子は、まだ話があるようだ。
「律子さんに、手を会わせたくて」
「今日のことも、報告したいの」
圭太は、拒めなかった。
「わかりました、お墓でなくて、自宅でよろしいでしょうか?」
池田光子は、また涙顔で頷いている。
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