第80話由紀は圭太が好きで苦しむ 「愛しています」の返信は来ない

由紀は赤い顔のままで、家に入った。


予想通り、母芳子に気取られた。

「圭太君?」

由紀は、耳まで赤くした。

「うん」(それ以外の言葉が出て来ない)


母芳子は、由紀の背中を撫でた。

「圭太君はどう?食事はしたの?」

由紀は、素直に白状した。

「食事はしていない、やりたいことがあるって」


母芳子の顏が、少し曇った。

「・・・情けないわね・・・由紀は」

「無理やりでも、食べさせないと、女にも甲斐性ってあるのよ」


由紀は、母芳子から逃げるように、自分の部屋に入った。

「そんなこと言っても・・・圭太さんに食べさせるのは、難しいもの」

少し後悔もある。

「もっと、迫っても・・・抱いて欲しかった」


由紀は、簡単に食事を終え、風呂に入った。

圭太の唇を思い出した。

「少し荒れていたかな、栄養不足」

「でも、あの時は、ゴチャゴチャ言わせたくなかった」

「奪いたかったから、奪った」

「舌も食べた、とにかく圭太さんが欲しかったから」


由紀は自分の胸を見た。

「圭太さんに・・・この胸を?」

「でも、十人並みかも」


少し不安になった。

「逃げない、責任を取るって言ってくれた」

「でも、私より、きれいで頭もいい人とか」

「私でいいのかな・・・本当に」


由紀は首を横に振った。

「嫌、私が無理」

「圭太さんは、他の人に渡したくない」


母芳子が言った「女の甲斐性」が突然、頭に響いた。

「私・・・圭太さんの役に立つこと、したのかな」

「監査では、ロクに教えられず、抜き去られた」

「私生活では、酔って絡んで、送られて?」

「おにぎりも期待されていなくて、一人で六個爆食か・・・」


ため息をついた。

「少なくとも、普通の彼女さんがやる、彼の胃袋を掴むって、出来ていない」


風呂から出て、ベッドの上に横になった。

思うのは、圭太のことばかり。


「今、何しているの?」

「ご飯食べた?」

「早く顔見たいよ」

「一緒に暮らしたいよ」

「毎日、抱き合って眠りたい」

「思い切り愛し合うの」

「いいでしょ?」

「圭太さん、そうしようよ」

「もう、氷の顏を見せないでね」

「他の女を見たら、蹴飛ばしますよ」


由紀は、また興奮して来た。

なかなか、眠れない。

強い不安も生じた。

「私が、とんでもない失敗して、圭太さんに迷惑かけて」

「そのスキに、優秀な美人さんが圭太さんをゲット・・・」


由紀は、スマホを手に取った。

圭太にメッセージを送った。

「圭太さん、愛しています」(送って、ドキドキした)


しかし、一晩、返信は来なかった。(既読もつかない)

由紀は、全く眠れなかった。


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